「話は以上になりますけど、何か質問はありますか?」

正直、このまま終わりにしてほしくなかった。僕の求めている答えが見つからないまま終わることが許せなかった。この話が終わってしまえば、僕の成長はあの絵の女の子になってしまうのだろうか。それでも理解もろくにできない中で質問なんてできず、僕は床を見つめた。

「はい」

その声に僕は顔を上げた。前から気になっていた村瀬だった。

「はい、村瀬さん」

「うちの母は生理がとても重い時があるんです。量も多い日みたいで。そんな時はどうしたらいいんですか?」

保健の先生は丁寧に説明をしていた。僕は泣きそうな顔で村瀬の横顔を見た。長い睫毛にショートカットがよく似合う元気な女子だった。彼女はこの数カ月で特に魅力的になった。ホルモンの変化なのだろう。少し丸みのある体に惹きつけられる魅力があった。

村瀬の女性的な成長を遂げている理由は、同じクラスの荻野君の存在だ。村瀬の視線で分かる。村瀬はいつだって萩野君を見ているのだ。村瀬にも生理が来るのかと思うとドキドキした。僕は先生が話している間、村瀬の胸やお尻を見た。

目の前のことで混乱しているにもかかわらず、僕の頭の中は村瀬の体に興味を持っていた。性教育が終わると、女子にはナプキンが配られる。僕はそれを受け取ると、投げ込むように、散らかったロッカーの中に突っ込んだ。そしてその授業を忘れるように僕は思いっきり走った。

僕の自慢は足が速いことだ。チャイムが鳴っても教室では男子が集まって性教育を受けていた。いったい男子はどんな話をしているのだろうか? 僕がその中に入ることは許されなかった。廊下で男子が出てくるのを待つ間、僕は教室をじっと見つめていた。僕もそこにいたかった。強く願うと現実が分からなくなりそうだった。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『レインボー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。