スペインは鉄道が便利なヨーロッパにしては珍しく長距離バス網が発達しており土曜日と日曜日の午前中それぞれコルドバ(回教寺院が有名)からグラナダ、グラナダからセビリアまでバスを利用しました。この地域の丘陵地帯は見渡す限りのオリーブ畑で、オリーブのくすんだ灰緑色と乾いた大地の赤茶色そして建物の壁の輝くような白と屋根タイルのオレンジ色がアンダルシアの風景の特徴です。

アンダルシアの華と言われるセビリアは明るく暖かく心が浮き立つ町です。モーツァルトの「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」、ビゼーの「カルメン」(タバコ工場を見てきました)、ロッシーニの「セビリアの理髪師」の舞台が皆セビリアなのも情熱の国スペインの中心だからと思いますし、メキシコからの銀はマドリッドまで行かずに皆セビリアの町を飾り立てるのに費やされたのではないかと思いたくなるくらい美しい町です。

市内中心部にあるアルカサールはイスラム様式の宮殿ですが、1364年カスティーリャ王国のペドロ1世(在位1350~1366年、1367年~1369年)がグラナダのイスラム王国から職人を借り受けて造らせた王宮でイスラム教国との関係が対立抗争だけでなく文化的交流もあったことが分かります。

 

セビリアはローマ時代ヒスパニア属州の首都だった町で五賢帝のトラヤヌス帝(在位98年~117年)とハドリアヌス帝(在位117年~138年)が生まれており、またコロンブスによるアメリカ大陸発見後は18世紀まで独占貿易基地として栄え、貿易船は大西洋からグアダルキビール川を100キロあまり遡りアメリカ植民地からの富を運んできました。

 

南国観光シリーズを始めてから欧州の天気図を注意して見ていますが、イベリア半島南部はこの時期のヨーロッパでは一番気候が安定しているようです。

ポルトガルのリスボン近郊ではコスタ・ド・ソル(ポルトガル語で太陽海岸)がリゾート地として有名ですが、アンダルシア地方南部の地中海に面した海岸線はコスタ・デル・ソル(スペイン語で太陽海岸)と呼ばれこちらもヨーロッパ有数のリゾート地です。フランス・プロヴァンスのコート・ダジュール(フランス語で紺碧海岸)の方が日本では有名ですが、スペイン・ポルトガルは物価も安く秋・冬の気候も温暖で欧州統合の流れの中で人気を集めているようです。

晩秋のヨーロッパ南国観光シリーズの最終回は土曜、日曜とも雲1つ無い快晴で寒気の南下にぶつかり空気は少し冷たい感じでしたが風はなく日差しも柔らかで、また今回は好天に恵まれたせいもあるかもしれませんが北ヨーロッパに比べると日照時間が2時間くらい長い感じです。ここから冬が長くて寒いイングランドにお嫁入りしたキャサリン・オブ・アラゴンはアンダルシアの青い空をきっと懐かしく思ったに違いありません。

追伸

晩秋の北ヨーロッパ紀行文について下の娘から「地名・人名の羅列ばかりで面白くない」との感想がありました。最近の南国観光シリーズは「まあまあ」とのことでしたが、旅行地の魅力の違いだけでなく陰鬱な天気が紀行文全体のトーンに影響した面もあるかなと思います。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『ヨーロッパ歴史訪問記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。