最後は、一番緊張する面接試験だった。面接に入る前に就職試験の本で読んだことを思いだした。

洗面所に行って、ネクタイは曲がっていないか。シャツがはみ出ていないか。靴は汚れていないか。

チェックした。

自分の番が来た。緊張しながらドアを2回ノックした。面接官から「お入り下さい」と言われ、「失礼致します」と答え入室した。面接官に背を向けないようにドアを閉めた。

「よろしくお願いします」と言って頭を下げた。

5人の試験官が横一列に座っていた。中央に応募者の椅子が置かれていた。

試験官の一人から「どうぞ、その椅子にお掛け下さい」と促された。

その時、その椅子の手前に小さな紙くずが落ちていた。元々私は、綺麗好きなので何気なく紙屑を拾ってポケットにしまった。

椅子の横に立って「受験番号○○の棚橋正夫です」と緊張した面持ちで頭を下げた。

試験官から「お座り下さい」と着席を指示されたので「失礼します」と言って姿勢良く座った。

「君、今、紙くずを拾ってくれたね。君が初めて拾ってくれました」

「はい。綺麗好きなものですから拾いました」と正直に答えた。

試験官から「何故、当社を選んだのか?」「初対面の人との接し方は?」「どんなサービスマンになりたいか?」「ラジオの修理は、どこが面白いか?」「君の長所と欠点は何か?」等々矢継ぎ早に質問された。

常に前向きに返答した。私の長所は、「粘り強く最後まで諦めないことです」。欠点は「熱中しすぎて時間を忘れてしまうこと」だと答えた。自分としては落ち着いて最大限の返答をしたと思う。

そのとき、何となく試験官の対応に手応えを感じていた。

数日後、入社の合格通知が自宅に送られてきた。飛び上がらんばかりに喜んだ。

嬉しかった。感激した。

「おじいちゃん。ボク、松下に合格出来た」と大声で合格通知を祖父に見せに行った。

「正夫。おめでとう。よう頑張った。良かったな」と我がことのように満面の笑みで喜んでくれた。

「おじいちゃんのお陰や。ありがとう」と涙ぐんだ。

その日の夕食は、おばあさんがお祝いにと「今日は、正夫の大好きなすき焼きやで」とみんなでお祝いのすき焼きを食べた。

「おばちゃんのお陰で合格出来ました。おばちゃん。ありがとう」

「正夫。お前が頑張ったからや。おめでとう。松下で頑張りや」と励ましてくれた。

「うん。好きな仕事なので頑張るわ」と明るく答えた。

社会人1年生の私を育ててくれた恩のある前田豊三郎商店の社長に退職願いを持っていった。

自分のやりたい将来の仕事について話し、「わがままを申しましてすみません」

と退職願を提出した。

社長は、前述の如く「君の将来を考えて受理しましょう。大いに頑張りなさい」

と励ましてくれ、円満退職することが出来た。

理解してくれた前田社長に「ありがとうございました」と深々とお辞儀をして心から感謝した。

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『180度生き方を変えてくれた言葉』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。