翌日も8時の開店早々、玲子がやって来た。ジーパンにハワイアン風のシャツを着ている。これも健康的に日焼けした玲子に似合う。しばらくすると玲子に引き寄せられるように数名の客が店に入って来て、さらに団体で3グループ入って店のテーブルは、あっという間に半分が埋まった。私がオーダーを作り、玲子が客のところに持って行く。その繰り返しが夜6時まで続き、玲子は宿に帰った。

夜、気分転換に狭い路地からなる市内を歩き、狭い通路と薄暗い電球で島ラッキョウ、島唐辛子、島でハージン(スジアラ)、ヤチャ(カワハギ)と呼ばれる魚などを照らし、戦前の雰囲気が残る永田橋市場に入った。

ここでオバァから「ハゲー、カッコいい兄ちゃんこれ買うチバー」と言われ島バナナを買う。この濃厚な味の島バナナを食べながら、名瀬名画座というやや寂れた劇場で、日活ロマンポルノの“女高生レポート 夕子の白い胸”を観て、白い肌が赤く染まるさまに興奮し、その興奮を地元限定のオリオンビールで覚まして眠りに就いた。夢の中で胸を露わにした玲子が現われることを密かに期待したが、それはなかった。

こんなこともあったが、8月の後半、私と玲子は岩崎バス本社前からバスに乗る。バスの中ほどに玲子を窓際にして並んで座った。バスは山手のゴルフ場を過ぎ、大都会と深い森が交差する名瀬の町を下に見て、やがてバスは峠を下り秋名に入る。

車中から海岸を見て、私が「あれが奄美の五穀豊穣を祈る“平瀬マンカイ”が行われる岩みたいですよ」と言うと「あれが本当に。何の変哲もない岩なんだ」と玲子が驚く。

「そうですね。普段なら見過ごしてしまう光景ですよね。私も初めてこの岩を見た時は驚きました」

奄美の人の岩、自然に対する畏敬の念に思いをはせた。なお奄美の集落近くの海には”立神“と言われる岩があり、ネリヤカナヤから来た神様がここで一休みして、集落に恵みを持たせて帰って行くと信じられている。その代表が平瀬マンカイだった。

「本当、これが奄美なんだ。奄美では自然と祈りが調和して生活していますからね。さすがパワースポットだね」

玲子の『奄美では自然と祈りが調和して生活していますからね』という言葉を聞いて、島人(しまんちゅ)すなわち島で生活する人への優しさを思った。次に、奄美の不思議を思い二色に染まる海に目を転じた。