【前回の記事を読む】【小説】あいつが「朝鮮人」だからといって差別することはない

第三話 熱い石ころ

中学時代は同級生だったというだけでとくに親しい友人というわけでもなかったのに、一日で親しくなったのは、不特定多数の人がただ免許を取るために集まってくる自動車学校という場で再会したからかもしれない。数日ののち、運転の練習を終えた明夫はいつもの小さなバイクを、ぎっしり並んだ自転車やバイクの間から引っ張り出していた。

「あとについてこないか。俺の家まで」

中学時代、常雄の家には一度も行ったことはなかった。十五分くらいだというので明夫はバイクでついて行くことにした。警察に見つかるといけないので、常雄は国道を横切ってすぐ脇道に入った。しばらくは田と畑の間の乾き切った道を砂埃を上げて突っ走る。砂埃を浴びるのは何とか我慢できたが、砂埃が目にも入ってくるので一定の間隔を置いてバイクであとを追った。

常雄の家はみすぼらしい雑貨店だった。低い軒、狭い店先には細々(こまごま)した日用品や菓子や野菜や果物まで並べてあったが、それらにもまたうっすらと埃が被っているようにも見えた。とても繁盛しているとは思えない。

彼は自動車学校の教科書を無造作に奥の暗がりに投げ込んだ。それから店先に積み上げてある小粒の梨から二つ取り、一つを明夫に渡すとアロハふうにズボンから出しているシャツの端で拭いて皮ごとかぶりついた。かぶりついては皮を吐き出すのである。明夫もそれに倣うことにした。

右手に神社の石垣が見えた。石垣の上には杉や楠や松の大木が繁り、道に溢れ出た楠の枝が涼しげな大きな日陰を作っていた。

「この神社のお祭りには小さい頃一度来たことがある」

四百年も前に由来するといわれているその祭りには、税務署から特別に許可を得たどぶろくが振る舞われるので近隣の町からたくさんの人が集まる。かつては飲み放題ということだったが、今年は交通事故や小暴力追放という名目で飲み放題はやめて参拝者一人に一杯ずつということになったと新聞で報じられていた。