「諦めたか。それも良かろう!」

蟲が恭子を四方から襲い、無数の顎が迫った。恭子は(ぬめ)る触手の一つを掴んだ。

途端―。

「があああああああああああああああああああ!」

ガマガエルが仰け反り、咆哮(ほうこう)を上げた。全ての触手も電撃を受けたかのように宙に硬直した。

何が起きたのか。

ガマガエルはばったりと昏倒した。

恭子は一撃目で、触手の粘液から男の生体エネルギーを感じ取っていた。粘液を通じ、蟲の生体エネルギーは吸い取らずに、男の生命を吸い取ったのだ。蟲を切り離す時間も与えずに。

恭子は新たなスキルを獲得した。自然に笑みがこぼれ出る。もう戻れない。私は戦闘の快感を覚えてしまった。

「敵を倒す事が出来たそうだな……」

「はい」

恵比寿顔と男が話している。

前回と同じ部屋。

男はやはり背を向けたままだ。先日とは違い、今は革張りの椅子に座っている。

「しかも相手はあの『蟲使い』だというじゃないか。もう、実戦に投入しても良かろう。幸い、そのような案件もある」

「しかし……」

「君の言いたい事は解る。しかしまず、我が国のために彼女の力は必要だ。それに、あの育成施設に彼女が居るとバレたのだから、居所が掴めないように、一度消息を絶つのが良いのではないのか?」

恵比寿顔は答えられなかった。男の言う事はもっともだからだ。しかし、それは自分の管理出来ない場所に恭子を移す事になる。男の言う案件に見当が付くからだった。それは、海外での任務となる。

彼女の意思を確認し、男の言う条件を彼女が呑むのであれば、私に止める力は無い。

恵比寿顔は、そう覚悟した。

後日、恭子の消息は途絶え、そのまま数年が過ぎた――。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『スキル』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。