【前回の記事を読む】ダダイズムから生まれたシュールレアリズムが藝術的革命なワケ

ゲルニカ誕生の時代背景

(3)シュールレアリズムと社會主義的レアリズムとの表現方法の差異

社會主義的レアリズムは無思想的經驗ではなく、常に社會觀に立脚し社會生活の矛盾を捉へ之をイデオロギー的に表現するものであって主要對象は常に社會であり、根本テーマは唯物社會觀より生ずる集團的社會的生活の經驗の中から規定されて來るのである。

『社會主義的レアリズムは現實に對するマルクスレーニン主義的原則を立場にした階級闘爭でプロレタリアレアリズムの藝術態度は現實の社會的矛盾を描き出すことであるから現實の形を變形したり非現實的な空想や幻想に落ち入った表現は許されないのである、シュールレアリズムはフロイドの精神分析學より割り出された學説を根本にして之を藝術の上に應用し夢、狂氣、潜在意識、異常な心理等抑壓された人間の心理(感覺)卽ち精神上の諸矛盾が現實社會の諸矛盾の爲起された抑壓の関係を社會に存在してゐる物に姿をかりてそのイデオロギーを明らさまに表現するのである。』

(著者注:『 』で括られた部分は内務省警保局の報告書の最終稿では割愛されている。)

これを読んでも、やはり納得できない。この文章は、むしろ芸術論的で、西欧で盛んになった絵画・文学芸術論を論評しており美術学校や大学の講義で論じられるような内容である。そう考えると良くできた論文と言える。取り調べ時に係官から受けた尋問に対する商の答えの中に敢えて違法性を見出そうとの意図が垣間見える。