ある日いつものように、置き薬の詰め替えのために顧客の家へ向かっていた時のことだ。あるはずの建物が消えているのを目撃し、少し驚いた。つい一ヶ月ほど前に通った時にはしっかりと街の一角を占めていたカラオケ店が、ほぼ解体されて今や瓦礫を残すのみとなっていた。

昔何度も遊びに行っていたせアツミちゃんにも教いか、残念だったし、時代の流れを感じずにはいられない。カラオケももう、かつてのように流行りではないのだ。人口減少の波も押し寄せているのだろうか。また街が変わっていく。次の建物が建てられる前に、この景色を残しておこう。俺はデジカメで、ただの空間となってしまった元カラオケ店を写した。これからはもっとよく街を眺め、景色を保管していこう、などと感傷的な想いを強めながら。

そんな風に街を眺めて走っていると、近頃はやけに解体工事が多いなあ、という感想が出てくる。あっちでもこっちでも、建物が壊されているのだ。それだけ街自体が古くなっているのか、人口減少という時代の流れで、商売をやっていけなくなる店舗、住人のいない家など、増えてきているのかもしれない。寂しい話だ。

しかし次第に、感傷から疑問へと、俺の意識は変化していった。やたらと解体現場ばかりが、目につくのである。いやちょっと待て、ばかりではなく、解体工事しか、目につかない気がする。以前はよくあった、いつの間にか田んぼが建売住宅に変わっていてちょっと驚く、そんな経験を、そういえばとうに失っていたことに気がつく。これ、ちょっとおかしくないか? 

ようやく俺に、街の異変が見えてきた。解体工事ばかりで、新しい建物が全然建てられていない街。まるで壊すことしか建設屋の仕事がなくなってしまったかのような街。俺の住む街が、いつの間にかそういう場所になっていた。こんなこと、どこの街にでもある、ありがちなことだろうか? そんなことはない、気がする。ではなぜ?

難問にぶち当たるとよくそうするように、俺は頬に手を当てて考え込む。これまでならほどなく解決して頬を叩き、ポン! と気持ちのいい音が出せていたのに、今回はそれができなかった。理由がまるで分からないのだ。

以来この気持ち悪さを解消するための、俺の謎解きの旅が始まった。けれど気持ちのいいポンを出すまでにまさか二年以上も掛かろうとは、当時の俺は知る由もなく、行く先未定のロングドライブに出発してしまったのである。秋風が、ちょっと冷たく感じ始める頃だった。

※本記事は、2022年2月刊行の書籍『草取物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。