「里奈ちゃん、可愛いな〜」

田所さんに品があると褒められると、そう育ててくれた母のことを褒められている気がして嬉しくなる。

田所さんは現在独身で子どもの人数は聞いていないが三人は話に出てきたので把握している。大した事でもないし他人の家庭事情に踏み込むのは失礼だと思い、あえてこちらから聞くことはしなかった。

高校時代の元彼の祐介が六つも歳上で器が大きく寛容な男性だったために、同年代の男の子はどう頑張っても幼く感じてしまい、交際しても長続きしなかった。

それに比べて田所さんは地位もお金もあることはもちろん、その余裕からなのか包容力と器の大きさは人一倍。物事や人の気持ちを多面的に考えて理解してくれる姿がとても魅力的だった。

田所さんに好印象を持った私は、田所さんからの積極的なアプローチにいとも簡単に心を奪われてしまった。四十二歳だと告げられたが、年の差なんて私には関係なかった。

裕幸さんには知らせず、秘密の交際が始まってからは田所さんが仕事を終えると飲みに出掛けるという一連の流れができつつあった。

週に数日は父親の介護があると言われ、出掛けることはしなかったが、それでも田所さんの家から徒歩圏内にある私のマンションまで通ってくれていた。

時間がない日は一緒にうたた寝をしながら時間を潰して、私の就寝まで側にいてくれた。行きつけの居酒屋で田所さんと食事をしながら楽しんでいると、隣の席に栄美華と裕幸さんが二人で現れた。

「あれ? 栄美華」

席に着こうとしていた栄美華は私の声に目を丸くした。全員がお互いの顔を見合わせて驚いている、という不思議な空間が訪れて栄美華と裕幸さんを見る限りこれは恋仲だと予想ができた。

食事を終えるとみんなで店を出た。自然と私と栄美華、田所さんと裕幸さんの二手に分かれて歩いている。

栄美華からそういう関係だと知らされ、私もそうだと伝えると二人して笑みが溢れた。私たち親友の恋人は親子。正直、面白い。それはずっと私たちの間で鉄板ネタとなり、何かと持ち出しては笑い合った。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。