【前回の記事を読む】「やめて!」母親の不倫相手に押し倒された娘…妊娠の末の悲しい死

第四章

四年生になった私は五月に内定をもらい、卒業に必要な単位を修得していたので、卒業制作を冬までにゆっくりと進めていくだけになった。

半年以上も時間があると初めは身が入らず、学生生活最後の年なので友人と夜飲みに出たり、車の免許を取得したりなどして過ごしていた。

その日も栄美華と数人の友人で「居酒屋きちんと」にいた。カラオケに行こうという流れになったので移動していると「里奈ちゃん?」といきなり目の前に現れた男性に驚いてしまい、ひっくり返りそうになった。

筋肉質で引き締まった体付きに極端に細いウエストで、身長は百七十二センチといった所、こんがりと日に焼けた真黒い肌が特徴の、同年代の男性が立ちはだかっていた。見覚えがあるようなないような、誰だか見当も付かない。

「俺だよ。山下の友達の田所裕幸」

「あ! 思い出しました」

もう二年前くらいになる。同じ学科の山下さんが主催する合コンに参加した時に出会った人。当時はもう少しふくよかな印象だったので一瞬分からなかった。

田所……聞き覚えのある苗字に思考を巡らせた。

「裕幸! 何してんだ。次行くぞー」

「オヤジ、ちょっと待ってて」

振り向くと、目の前にいたのは二年前に「霞」で出会っていた田所さんだった。

「田所さん!」

思わず名前を呼んでしまった。

「サキちゃん?」

「そうです。エミちゃんもいます」

栄美華が軽い会釈をした。

「えーーーっ! 偶然だね。今から飲みに行くの?」

「これから栄美華と二人でカラオケに行こうと思いまして」

「一緒に行こうよ! 奢ってやるから! な、裕幸」

「俺はいいけど、二人はいいの?」

栄美華が私に目でオッケーサインを出した。

「はい。大丈夫です」

会った回数は裕幸さんが一回、田所さんもほんの数回だったが、すでに知っている人というだけで以前よりも距離が縮まった。

お店ではないということもあって私も緊張せずに会話をすることができた。サキという名前は源氏名だと伝えると、本名で呼ばれるようになった。