一週間が長く感じられ、心折れて休みがちとなっていった。日雇いバイトなら自由が利くし迷惑もかからない。気が付くと、完全にフリーターになっていた。決して納得しているわけではない。

もう四十を過ぎたのにフリーターに甘んじている自分に、ほとほと嫌気がさしていた。しかし、生きていかねばならない。そんな使命感だけで日々を過ごしていた。だが、そろそろ限界だった。もやもやした雲の隙間から光が射すかのように博樹の頭に甲高い声が響いた。

「パパ、このお花食べられるの?」

墓地の道向かいにある叢の端に、まばらに咲く彼岸花を指さして、三〜四歳と思われるかわいい女の子が叫んだ。

「駄目だよ、毒があるから」

父親が女の子を諭した。

「彼岸花は死人花とも言われているんだよ。人を死に誘うって……」

「貴方、そんな話を子供にしたって……」

母親が笑顔交じりに困惑した表情を浮かべると、気を取り直すように父親が話を変えた。

「帰りにファミレス寄るか。何が食べたい?」

すると、女の子は即座に答えた。

「ハンバーグ!」

「よし! じゃあハンバーグ食べに行こう」

彼岸花の話などなかったかのように女の子は向き直り、ご機嫌で駆け出した。彼らにとってはたわいもない話でも、なぜか博樹の耳からはその言葉が離れなかった。

「死に誘う……」

それは博樹の中に前々からあった感情だった。しかし、言葉にすればすべてが終わるような気がして、ずっと目を背けていた感情だ。

あまりにも青い空を見ていたせいですべてが吹っ切れてしまったのだろうか。蓋をしていた感情が沸々と湧き出して止まらなかった。

※本記事は、2022年1月刊行の書籍『赤い毒に揺られて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。