職員と保護者との人間関係がよいこと

また、職員と保護者との人間関係が悪くては、子どもたちは園で安心して生活することができません。

園に持ってくるように定まっている持ちものを持ってこなかったり、連絡がなくお迎えが遅くなったり。また子どもの持ちものが紛失したり、顔に引っかき傷などのケガをさせられたり……といろいろなことが起こって、職員と保護者との間にも行き違いや感情のぶつかり合いが生じます。

けれど、ちょっとした行き違いや誤解があっても、翌日、顔を合わせたときにいつものように朝のあいさつをしたり、連絡帳や直接の会話によって必要なことを伝えたり、子どものよい面を知らせたりすることによって関係を修復していくことができます。

この点で保育園は、バス通園などの幼稚園や学校と比べて、非常に恵まれているのではないでしょうか。毎朝の登園時と夕方のお迎えのときに、保護者と直接顔を合わせる機会があるからです。

子どもたちに「安心」をもたらすために、職員間の人間関係や、保護者と職員との関係が大切であるという認識は、多くの園においてもなされているように思います。

一人の人間によってしっかり見守られているということ大東わかば保育園では、園長が毎朝7時から登園してくる子どもたちを迎え、子どもたち一人ひとりと、そして保護者とあいさつを交わします。一年のうち数日は園を留守にすることがありますが、基本的に毎日一人ひとりに声をかけます。

そして、子どもたちはかばんなどを保育室に置いたあと、9時半ごろまで園庭や事務室、保育室のどこで遊んでもよい「自由あそび」の時間となります。その際には、自由に遊んでいる子どもたちの〝いのち〟のリズムと共鳴するような姿勢で、気持ちを込めて見守ります。

朝だけではなく、昼食後と夕方4時以降の「自由あそび」のときにも、この「気持ちを込めて〝見守る〟」ことをできるだけ多くおこなうようにこころがけています。しかし、この〝見守る〟姿勢が弱くなったり、崩れたりするときがあります。

それは、喧嘩がエスカレートして砂を顔にかけたり、スコップを振り回したりするなど、子どもたちのあそびが危険になるときです。このような場合は、子どもの名前を呼んだり、直接制止したりするのですが、この注意や制止が必要以上に多かったり、早すぎたりすることがあります。

それは、精神状態が悪かったり、ほかの園で大ケガをする事故が起こったりしたことをテレビや新聞、ほかの人からの話で知って不安になっているときなどです。一人の人間によって見守られることを無意識のうちに感じることによって、園で生活する一人ひとりの子どもは安心感を得ているように思います。

また、実際に保育にあたる保育士たちの気持ちのゆとりが子どもたちに安心感を与えますが、保育士たちの気持ちにゆとりをもたらすうえにおいても、園長の姿勢や存在は少なからず作用しているように思います。

※本記事は、2022年2月刊行の書籍『保育に、哲学を!』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。