【前回の記事を読む】アテネのトイレに書いてあった「米国ヘイト」の酷い落書きとは

中近東の旅

トレーラーバスで行くシリア砂漠シリア(ダマスクス)→イラク(バグダッド) 一九七四年二月二日

予約したバス会社に昼過ぎに行く。十四時ごろ、バスが会社の前にやってきたが、これがひどい代物。装甲車のような車で、車体は銀色に光っており、窓はとても小さい。「こんなのでバグダッドに行くのかよ」と思わず声に出して言う。事務員に尋ねると、これはバスの車庫までいく車で、車庫で別なバスに乗り換えるとのこと。

この座席がなく(だから壁につかまって立っている)、護送車のような車で十五分くらい走って車庫に着く。しかし、バスが見当たらない。ところが驚いたことにバス会社の作業員がトレーラーバスのような車の屋根にわれわれの荷物を積み始めた。ダマスクス発バグダッド行きの夢のバスがこんなトレーラーバスかよ。こんなバスは初めて見た。でもこの会社はこのトレーラーバスしか保有していないらしくて、車庫には同じようなバスしかない。

車体は銀色で内部は後で設置したとわかる座席が並んでいる。一応リクライニングシートである。トレーラー型なので、運転車両と客車両は分離されて別個の車両である。そのため、進行方向の前方は壁になって見えないので、乗客はまるで囚人車か貨物車に積みこまれたような感じになる。何か用事があるときは、座席の前についているベルを押して運転手に知らせてバスを止めてもらう。

何かと時間をくっていたが、十五時過ぎに出発。アレッポ経由で行くのかと思っていたら東の方に進んでいる。ダマスクスから東というと、まったく人家のない砂漠地帯だ。

一時間半ばかり砂漠に向かって走ったかと思ったらシリアの出国手続き。さあ大変。夕食はまだ済んでいないのにシリアを出ることになった。あわてて売店に行ってシリアのお金をすべて使ってサンドイッチ、ケーキなどを買い込んで夕食の準備をする。

シリアの出国手続きも無事終わってトレーラーバスは砂漠を走る。もう日没も近い。砂漠のど真ん中で障害物は何もないのに、どういう訳か道は時々曲がる。人というのは不変に耐えられず、常に変化を求めるものなのだろうか。だから、障害物のない大平原の中でも道路が曲がるのだろうか。