サクラ

♫『風に立つライオン』(さだまさし)

桜がテーマの歌は少なくないのに、なぜライオンなのかと不思議に思う人もいるだろう。異国情緒漂う打楽器で始まるこの曲を聴く度に涙が零れる、と言う知人がいる。海外駐在員として働いた人だ。外国での生活体験を持つ人には特に根強い人気のある楽曲と言える。

尊敬する優秀な日本人医師が青年時代にアフリカで医療に携わる様子を、さだまさしは曲にした。親しかった女性から届いた結婚の知らせに返信する内容が、歌詞になっている。

群れから離れて、風に向かって立つライオンのように生きたい、と医師は心情を吐露する。千鳥ヶ淵で彼女と見た夜桜を思い出しながら。1987年の作品だ。2015年に、同名の映画が作られた。大沢たかおが主人公の外科医に扮し、内戦で負傷した少年達との交流や、日本人看護師の活動、そして思いを寄せていた女性の日本での暮らしなどが、淡々と描かれる。エンディングで『風に立つライオン』が歌われ、一人の医師の生きざまに、観る人の胸は打たれる。

東京都心で三月十四日にソメイヨシノが開花した。平年よりかなり早い。何日か後の花冷えの日にも、花曇りの日にも、他地域から続々と開花のニュースが伝えられる。近所の小学校の桜も満開で、遠くから見ると、曲がった黒檀の箸にびっしりとお赤飯がくっついているかのようだ。

本棚で変色し始めた「大人のウォーカー」(角川クロスメディア)を取り出した。10年以上前の春号だ。「ザ・ベスト・オブ一本桜」の特集が載っている。全国の名木26本が紹介されていて、その中に、飯田の二本、長姫の江戸彼岸と麻績の里舞台桜がある。

藍色の空と瑠璃色の山並みを背景にそそり立つのは、長姫の江戸彼岸だ。江戸彼岸には枝がしだれる「シダレザクラ」と、しだれない「タチヒガン」があり、この別名「安富桜」は典型的な立ち彼岸の名木だそうだ。美形の枝がきりっと勇ましく、老舗の和菓子のような花と相まって、深い渋みのある、風に立つライオンのような老木だ。

麻績の里舞台桜は半八重彼岸しだれで、この雑誌の表紙にもなっている。しなやかな枝ぶりと、あでやかなピンクの花が淑女の外観を呈している。

飯田界隈の桜は枚挙にいとまがない。一本桜行脚は、ずっと続けたい。