【前回の記事を読む】二人の頭の中は十六年前に死んだ死者の記憶が鮮烈に蘇ってきていた…

容疑者は数人いる

北村大輔は、島洋子への疑いが強固なものであることに怒りを感じながらも、警察官としては高倉豊の考えには共感してもいた。そのため彼の心の中は、伯母が事件へ関与したことを支軸にし、それを否定することと肯定することを重りに、釣り合いを取ろうとするやじろべえのような状態になっていた。

そしてそれは、一度は無理やり自分に納得させた、過去の或る事件を鮮烈に蘇らせるきっかけにもなった。このことがどんな意味を持つのか、彼にはよく分かっていたが、それを認めたくない自分も居て、北村大輔の頭は混乱をきたした。

それを高倉豊に悟られないようにするため、彼は落ち着くように自分に言い聞かせていた。

「探りを入れて欲しいんや。後の判断は大輔に任せる」

やはりそんなことだったかと北村大輔は思った。

これまでの話の流れから、高倉豊が何かをやらせようとしていることは分かっていたから。

「これは上からの捜査協力の要請ということになるんでしょうか」

「いや、私の勝手な判断や」

「そうでしょうね。僕は巡査でただの交番勤務やから」

「そう言うな。もしものときは自首を勧めて欲しいんや。大輔にしか出来ないことや」

「でも、何で強行犯捜査2係の豊君が?」

そのときになって北村大輔はようやく、何故高倉豊が今回の事件の捜査に、送り込まれているのかという疑問を口にすることが出来た。それは先程来ずっと感じ続けていたことだった。

「うん。過去の未解決事件が絡んでいるということや」

「そうですよね。豊君は、事件が解決しないまま捜査本部が解散した難事件を継続捜査するのが仕事ですから」

「今回は予備班扱いなんや。警視庁と合流するみたいや」

「警視庁とですか」

「向こうさんの事件に、今回の事件が絡んでいるようやな」

「そうでしたか」

北村大輔は一応納得出来る答えを得たので、それ以上そのことについて尋ねるのはやめにした。