【前回の記事を読む】【小説】殺されたのは5人…驚くべく偽装殺人の手口とは?

携帯エアリー

紀香は省吾とはだんだん距離を感じるようになり、事件のことは言いづらくなっていた。結局杉田綾乃がインスタントコーヒーに入れたのはやはり睡眠薬で、殺したのは沼田今日子。そして毒殺ではなく絞殺。言わなくて良かったと思った。

それより、省吾が葬儀から帰ってきてからの様子が気になる。若宮にカップラーメンを食べさせたり、エアリーを使わず容疑者と話をしたがったりと、どこか遠い世界の人間にでもなった気がした。

OSグループから、オーナー押坂の遺体の隠し場所を聞いた。その場所とは沖縄県架名国島。受け子が捕まって箱を変える際、会社の慰安旅行をするかのように、出来るだけ遠くへ行こうとお金を持って八人で旅行した。

大木も若宮も若宮の会社の事務員も一緒だった。そして省吾は若宮を連れて他の刑事も一緒に飛行機で九州へ。船で架名国島まで辿り着き、死体を埋めたはずの場所まで来た。

「死体がなくなってることはないか?」

「それはないとは思うけど、台風やら地震やら何があるかわかんないからな」

死体は大木を筆頭に七人で埋めたと言う。架名国島を選んだのは大木。最初からそこで押坂を殺すつもりでいたのだ。

OSを最初に勧めたのが押坂。それに賛同したのが大木だ。二人は同じ文東大学の同じ学年。しかし大木は卒業して押坂は中退。押坂は職に恵まれず水商売をしていたが、夢を大きく持っていたため、金に飢えて詐欺に手を染める。

震災の直後、大木の家族が亡くなったことを理由に募金を集めそれを二人で使いこむ。こんなにうまくいくのならと、架空会社の営業、著名人宅に銀行員を装いおまとめ定期を勧めてお金を預かる。

その後、「息子さんが交通事故をおこしましたよ!」の電話で大木を含む受け子にお金を受け取ってもらいそのうちの一部を受け子に、あとは押坂がもらう。

そんな調子でOSが成立した。しかし、傲慢で荒っぽい性格の押坂にはどうしてもメンバーが耐えられず、メンバー満場一致で押坂を消す作戦に出た。犯罪に手を染めると詐欺も殺人も複数なら罪悪感もそれほどでもない。