第2章 リズムメイク

10.  音楽映像のリズムメイク

音楽に合わせる

ミュージックビデオやライブ映像などは音楽を基準に画のリズムを組み立てていきます。音楽というレールありきの映像制作は基準となるリズムが最初から存在し、感情のイメージもしやすいためリズムメイクの訓練にはうってつけです。

拍に合わせる

音楽編集の基本は曲の拍にカットポイントを合わせることです。拍でカットを切ると音楽のリズムと同調しやすくなります。そして
拍ではハイハットやスネアなどのドラム音が鳴るため編集の違和感を打ち消してくれます。

拍を外す

ただ、拍だけで切っていると安定感は出ますが、予定調和になってしまいリズムに飽きがきてしまいます。拍と拍の間を裏拍といいますが、カットポイントを適度に裏拍に合わせると、安定感と刺激のバランスがよくなり没入しやすい映像に仕上げることができます。

写真を拡大 [図1]カットポイントを適度に裏拍に合わせる

音楽リズムと映像リズムを同調させることが音楽映像の基本ですが、あえて同調を外すことで適度な不規則性を感じさせ、没入感を促すことができます。

11.  ストーリー映像のリズムメイク

「時間の流れ」を邪魔しない

映画やドラマのようなストーリーのある映像は脚本や演技、画面の美しさで見せていけばよいと思われがちですが、ストーリー映像にもリズムは重要です。

ただし、ストーリーはMVのようなイメージと違い、時間軸を基準にした流れがあります。この「時間の流れ」の邪魔をせずに視覚的リズムを作り出すことがストーリーリズムの重要なポイントです。

サイズとアングルでメリハリを出す

以下は銃を向けられた女性がパンチで撃退するというアクションシーンです。上のコンテはわかりやすい反面、同じようなフルショットの画が多いため、メリハリが弱くリズムが緩やかです。

写真を拡大 [図2]サイズとアングルを変化させる

下のコンテのようにサイズとアングルを変化させるだけで、画面にメリハリが出て一気にリズムが激しくなりました。

  1. ロングからバストショットへの大きなサイズ変化
  2. サイズは同じだが、右寄りのカットから左寄りのカットへ変化
  3. アングルの大きな変化、日常では見られない視点はフックとなる
  4. カメラは下向きから上向きへとさらに大きなアングル変化

緩急でメリハリを出す

さらにもっと刺激的なリズムを出すために、時間の緩急にもメリハリを出してみます。フックとなるカットを3カット追加してみました。

写真を拡大 [図3]フックとなるカットを追加して時間の緩急にもメリハリを
  1. パンチを繰り出す前の一瞬を、目のアップとスロー編集で見せることで、緊迫感を強調し視聴者を引きつけます。
  2. 男目線の殴るカットは時間にしたら10フレーム(0.3秒)くらいです。前のスローから一気にスピードアップするため強いメリハリが生まれます。
  3. 倒れた男を見つめる女のカットを入れることで、勝利の余韻を視聴者にゆっくり味わわせます。

日常的なシーンであればサイズやアングルの変化はもう少し穏やかでフックの量も少なめですが、アクションなどの興奮を促すシーンはメリハリのある変化と多めのフックを入れるのが定石です。内容がわかりやすいだけでなく、シーンに合った適切なメリハリをつけることが、ストーリーにおけるリズムメイクの基本です。

「編集」「動き」「音」の組み合わせで映像リズムを作る

映像リズムの構成要素は「編集」「動き」「音」です。心地よい映像リズムを作るためには、この3要素の組み合わせを意識して撮影や演出をしなければなりません。

先ほどのコンテは編集だけのリズムメイクでしたが、これに「動き」と「音」の要素を加えてみます。

写真を拡大 [図4]編集した映像に「動き」と「音」の要素を加える
写真を拡大 [図5]リズムメイクまとめ

● リズムメイクは視聴意欲を持続させるための技術
● 映像は見てもらわなければ始まらないので、リズムは内容よりも重要
● 映像リズムを構成する要素は「編集」「動き」「音」
● 心地よいリズムとは違和感のない適度な変化
●「カット」や「シーン」を意味ではなく記号として捉え、共通性と差異量のパターンでビートを作る

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『伝わる映像 感情を揺さぶる映像表現のしくみ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。