【前回の記事を読む】【小説】この世を去る時が近いと悟った卑弥呼…復活のために用いた最後の手段とは!

古代人の観念

卑弥呼は呆れたようにため息交じりで話に戻った。

「私はそういう思いつきを聞いているわけではないのですよ。しかしまあ夢のない答えですこと……。しかたありませんね、それでは私の銅鐸の使用方法へと立ち返って続きの話をしますね。それから銅鐸が私の力の増幅器である秘密に感づいた陰の力を持つ者たちは、それらを破壊し、秘密裏に地中深く葬り去ってしまったのです。

島根県の加茂岩倉(かもいわくら)遺跡とはその愚行の痕跡です。しかもその技は私の銅鐸を使ってでしかできない奥義であり、それ以外の銅鐸は私には不必要の物でした。そういう経緯で、副葬品としての銅鐸はここにある物だけという次第です。これらの秘儀もこれまで同様に、陽の目を見ることもないでしょうね」

卑弥呼は、佳津彦を見て念を押すように言った。

「それと祭祀の道具ですが、私は予言者であり祈禱者とは違います。したがってここにはそれがありません。次に明日美も驚いた大量の三角縁神獣鏡についてです。気味の悪い生物がごちゃごちゃと描かれていて、その上ごつごつして使い心地も悪く嫌いでした。

誰が何のために作ったのかは知りませんが、私のセンスには合うはずもなく、美しさの欠片も感じられないのです。それ故に副葬品として入っていた件には一切関知していません。よかれと思って、後の者が入れてくれたのでしょう。

それが誰なのかが判明した日には、石の上にも三年ということわざ以上に、五年位は座らせておいて説教をしてやりたいくらいのものです。三角についてはそんなところです」

三角縁神獣鏡に纏わる話にはよほど不満があるようだ。ひどく怒っている。

「お気に入りはここにある内行花文鏡です。これは使い勝手がよく、洗練されたデザインのこの銅鏡は、腕の良い職人の業物であり、佳津彦の言う通り実に素晴らしいものです。機能的な物は美しい、ハイセンスです。あとはそうですね、天見家の話もしておかなくてはいけませんね。天見家の始まりは私の娘にあります。

全くもって不可思議な、魏志倭人伝なるものには卑弥呼に夫はいなかったという記述があるものの、私にはこの地で夫となる人と出会い、そして二卵性の双子の子がいたのです。余談になりますが、それはそれは、彼はいい男だったのです。

しかも大恋愛だったのですよ。その双子の姉が天見姫と呼ばれ、あなたたち天見家の祖先となったという次第です。また弟は父方の後継者となり、一族を率いる長になったものと思われます。天見家関係はこの位のところでしょうかね」