風に乗りミカンの香り訪れて子と口ずさむワルツの歌を(二〇一二年五月)

台風から子が守りしスイートピービニルのドレスをふんわり着てた(二〇一二年七月)

吾子は言う竹の子掘りの手を休め「真直ぐなるもの天へ伸びる」と(二〇一二年四月)

ふつふつとお釜が笑う囲炉裏端こぬかの湯船に浸かるは竹の子(二〇一三年四月)

心病みてなおそっと吾にくれるのは天使の笑顔君十八歳(デイケアで二男と勉強する女子高生に会って)

その色とその味で自己主張するグミは春でも夏の実でもなし(二〇一三年五月)

陽に風に土に感謝のティータイム子が焼きし豆腐ドーナッツの香(二〇一四年四月)

取り出せた幼き日の書を唱和する『希望前進』読めるまでになり(二〇一四年九月しまいこんだ二男の書が読めた記念の日)

壊しきり閉ざしきる過去雪が消え別の世界の歌が微かに(二〇一五年三月この地に珍しい大雪)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
※本記事は、2021年12月刊行の書籍『なかむら夕陽日報【文庫改訂版】』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。