「その方は、宮城県角田市にお住まいの社長さんですよ」と言われたが、東京から来た私は、角田市がどこにあるのかわからない。「そこは遠いのですか」と尋ねると、「社長さんは、きっと会いに来られると思いますよ」と言われた。

また、Aさんが言うには、「克裕さんは、コンピュータ診断によると、あなたに一番合っている人」だそうだ。写真付きのプロフィールを見て驚いた。彼の趣味は、映画鑑賞、パラグライダー、空手である。映画鑑賞は同じだが、他はブッ飛んでいる。息子も空手を習っていたので、空手をする人の礼儀正しさは好きだし、強くてたくましく、その反面心優しい人が私の希望なので、私に合っている人なら、きっと素適な人に違いないと思い、夜、電話をかけてみた。

電話の声やお話の仕方には、明るく優しい人柄がにじみ出ていた。お忙しい方のようだったが、それでもスケジュールを調整して、「すぐに会いましょう」と、言ってくれた。初めてお会いする日曜日が、やって来た。仙台の駅前の指定された喫茶店の前で待っているが、写真の人はなかなか現れない。

私より九歳年上の人。周りを探したが、スーツを着た若い男性が一人いるだけだ。「もしかして、みどりさんですか」とその若い男性が、笑顔で近づいてきた。その時点から、私の時計は彼の時の速さに巻き込まれ、あれよあれよと進んでいく。「じゃあ、ここに入りましょう」と彼は言って、店の中に入っていく。「コーヒーでいいかな」とレジでチケットを買って席に着くと、もう一度立ち上がり、ワッフルを持ってきてくれた。

思えば、大学を卒業後、最初の結婚をしてからは、主人のため、二人の可愛い子供のためと、ずっと人のために動いてきた気がする。前夫は今で言うモラハラ夫で、自分の考えは極力押し殺してきた。そうすることで家庭の平和が保てるならと思ってきた。だが、今こうして、私の前には大好きなコーヒーと、私のために置かれたワッフル。心の中に花ふぶきが舞った気がした。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『座敷わらしのいる蔵』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。