第一章 北海道

一 家族の宴

私が六十年前の学生の頃、家は兄弟六人の八人家族であった。父は安月給の教員で、家の中には酒好きであった父へのお中元・お歳暮の酒がふんだんに並んでいたのを思い起こす。そして、年末には東京に就職した兄の帰省を家族全員で心待ちにしていて、貧しいは貧しいなりに皆が一堂に会する喜びに満ちた酒宴が待っていた。

その酒宴の席には鵡む川の親戚から届いたシシャモや輪西の露天商から買った宗八鰈そうはちがれい、北海タコなどが並び我が家は酒の肴に困ることはなかった。また、久しぶりに家族全員が揃うので話題は尽きることがなく、楽しみにしていた時間があっという間に経ってしまうのが逆に惜しい気持ちになったものである。

盛り上がった頃に始まるのは楽器と歌であった。兄は希少なイタリアの名器「エキセルシァー」(クロマチックアコーディオン)を弾き、私は宮田東峰のハーモニカ、母は三味線、姉妹は琴を弾くが場所が狭いので歌にまわる。そして弟は箸を手にして自慢のカラヤン(指揮)役となって宴は音が絶えることは無く、最後は決まって皆で「洞爺湖の夕日」と「知床旅情」を唄う。そのような会話と笑い、そして音楽が我が家の決まった酒宴のスタイルであった。