「君、私が奄美に来た理由、聞かないね。何で聞かないのかな、私に魅力ない」

「魅力的だけど何となく喋りたくなさそうなので、意識して聞かなかった。それが優しさだと思った。それに俺は奥手で女性は苦手分野だから」

自分の気持ちを素直に表現したが、玲子が奄美に来た理由を知ると今の関係が壊れそうで怖かった。

「それは分かるけど、聞く優しさもあると思うよ。特別に許すから逃げないで聞きなさい」

言い終えると、玲子は手に持っている茶碗に入った黒糖焼酎を一気に飲み干した。私も急かされるように、トビンニャ(奄美の貝)を飲み込みビールで流し込んで聞いた。

「奄美へは感傷旅行でしょう」

この問いかけに玲子は答えなかった。私に後悔と不安が過った。

「それじゃ誰かを探して、それとも逢いに来たの」

少し瀬踏みして無難な質問に変えたつもりだった。

「それ、ちょっと正解。そしてそれから」

ここでやっと玲子が答え、安心してその勢いで聞いた。

「告白しに来たけど振られてしまった」

「それ大正解。君、中々勘いいね。私の傷ついた心をもっと慰めてくれる」

最初、冗談と思ったが気が付くと既に私にしなだれ泣いていた。その泣き声が段々と大きくなり周りの人や通行人が気に留めたが、見て見ぬ振りをしてくれた。それに甘えるように優しく抱きしめた。

「ありがとう。気持ちが納得できた。もしよかったら私が喋ることを少し聞いて。この男から真剣なプロポーズを受けたことがあるの、大学卒業後は自然に結婚出来ると思ってた。それが何故か男が突然心変わりして、その理由が分からずまた人間不信、いや男不信に陥ったの。天国から地獄だよ。私の気持ち分かる」

「分かるけど。でも人間不信や男不信って、どういう意味。それに結婚したい男が何で心変わりしたのか、話がつながらないけど。その男も俺のように逃げたの」

※本記事は、2022年2月刊行の書籍『20歳、奄美の夏物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。