1週間後、王様のイギリスへの公務訪問が決まり、私も同行する事が決まりました。

ドクター、ナース、メイド(モロッコ人4人、スペイン人3人、フィリピン人2人)と私。後は男性達総勢100人近い人達が、王様専用機に乗って一路ロンドンへ。

ホテルに着き、私達の仕事は身の回りのお世話、身支度やベッドメーキングなど。私以外の方は20年30年と働いているベテランばかりで、ただ言われるままに働きました。

次の日ホテルに迎えのロールスロイスが到着。1台に王様、もう2台に私達が乗り、パトカーに先導され宮殿に向かいました。沿道の人達が私達にカメラを向けて写真を撮っていましたが、お手伝いで来ているのに誰だと思っているのでしょうね、またまた未知の体験。私はどこへ来たのだろう、今までの日本の生活がウソみたい。

宮殿の中は、私達使用人の部屋があり、そこに宿泊。王様からお仕事用のドレスを買いなさいとお金をいただいたので、フィリピン人に付いて来てもらいデパートへ私の洋服を買いに出掛けたところ、その間に王様が私を呼んだそうですがいなかったので、帰ってから同僚は王様から叱られたそうです。

王様はチャールズご夫妻の2部屋を借り、1部屋を寝室、もう1部屋を荷物置場として使わせていただきました。荷物部屋に普段着のダイアナ妃が入っていらしたので、大慌てでご挨拶。私がトップにご挨拶をしたのですが、フランス語で何かお話をして下さったのでチンプンカンプン。後で何とおっしゃったのかをお友達に聞きましたら、

「この部屋を通らないと、子供達が遊んでいるプールに行けないので通して下さい」

とおっしゃったそうです。ごくごく普通でニュースで見るプリンセスと違って、家では私達と何の変わりもないお母様なのね、と思いました。

王様から初めて、10時に戻ったらマッサージをして欲しいと頼まれましたが、お仕事の帰りが遅くなって中止。「すみませんでした、マダム田中」なんて呼ばれて、なんだかくすぐったい。

次の日の夜、パーティーから帰っていらしたエリザベス女王ご夫妻を玄関でお待ちしてご挨拶。パーティーからの帰りでローブデコルテを着ていらして、それはとても綺麗でした。「ようこそロンドンへ」と、とても優しくご挨拶をして下さいました。

昨日はプリンセスダイアナ、今日はエリザベス女王様、まるで夢を見ているようでおとぎの国に来たのだろうかと錯覚に陥りました。日本人でダイアナ妃とお会いした方達はたくさんいらっしゃるでしょうが、メイクをしない普段のダイアナ妃にお会いした方は余りいらっしゃらないのではないか。これが私の自慢です。

※本記事は、2022年1月刊行の書籍『王様と母と私』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。