美香チャンがもう一杯、アールグレイを持ってきてくれた。

「ところで貴方の事を、なんとお呼びしたら良いですか。そう、あと、お子さん居らっしゃいますか」

「成田です。成田政典です。政治の政に、辞典の典です。子供は妻の浮気もあって、まだ居ません」

「そうですか。それでは真面目にお答えしましょう」

再びアールグレイを口に運びながら、こんな説明をした。

成田さんの場合は、奥さんが浮気をしていたんだから、離婚しても慰謝料は払わなくて済む。逆に取れるかもしれない。取られるのは、年金分割制度で、将来年金を貰える様になった時、報酬比例部分の半分位なものだ。これだって、結婚期間中だけの分だから、たいした金額では無い。

さらに浮気が原因だから、財産分与も有利に進められる。生命保険に入っていたら、名義変更すれば良い。子供は居ないし、結婚生活もそれほど長くは無い。要は奥さんを身一つで追い出せば良い。今の世の中、ひどい格差社会に成っている。女一人で生きていくのは大変だ。貧乏人はいつまで経っても貧乏人だ。たぶんある程度の年に成っているだろうから、良い職に就くのは難しいだろう。収入は当然減る。そうすると貢げなくなって、男にも捨てられる。生活も乱れる。負け組だ。

そんな元奥さんを尻目に、成田さんが幸せに成れば良い。たったそれだけで良い。素敵な女性を見つけ、結婚して、子供を作り、立派な大人に育てて、良い家庭を築けば良い。出世して、家を建て、老後は子供と一緒に住む。

「どう、つまらない女のために、刑務所に入って一生棒に振るより、平凡で簡単でしょ」

「そうですよ、そうですよね。今まで怒りで頭がおかしかったのかも。俺はなんて馬鹿な事を考えていたんだ、ハハハハハッ。今日はちょっとこれで失礼。色々考える事が有るから。あっ、ママ、お勘定」

「えっ、急に。これから一緒にゆっくり飲もうと思ったのに。時間気にしてたみたいだけど、この後何かやる事でも」

「いや、一人冷静に成って、ゆっくり考えようと思って」

「あーそれは良い、そうしたら良いですよ」

※本記事は、2022年1月刊行の書籍『神隠し共同体 リタイアド探偵2』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。