【前回の記事を読む】【小説】「この珠には、余が最も愛する女人の魂が入っておる」」

外伝二の巻 鳳炎(ほうえん)(こう)(りゅう)の愛

深夜、寝ている羅技の名を呼ぶ女性の声が聞こえた。羅技がその声に気が付き、ふと目を覚ますと目の前には千世がいた。

「羅技姫様、迷惑をおかけしてご免なさいませ。鳳炎昴龍様が酷いお怪我を負われたのは私のせいなのです。次期龍王におなりになられる御方に、私の父上やムラ人達が取り返しのつかない酷いことをしてしまいました。しかし、鳳炎昴龍様は何もなかった様に笑って下さいます。ですが、龍体になられた御姿はとても痛々しくて私は鳳炎昴龍様のお顔を見ることが出来なくなり、龍珠の中に閉じ籠ってしまいました。鳳炎昴龍様は優しく呼びかけて下さいます。でも……、私は龍珠から出る勇気がありませんでした。羅技姫様の御心に触れまして、やっと今、出られたのです」

「千世殿。もうこの龍珠に戻ろうと考えてはなりません。そうじゃ! また、ちょいと悪戯をしてやろうかの! 我は赤龍に弱音を吐いたのが、今になって悔しくてならぬ」

「えっ?」

「千世殿、お耳を拝借致します!」

これから起こそうとする悪戯を話すと、千世は突拍子もない羅技の悪戯に思わずクスクスと笑った。

「そうじゃ! その笑った顔じゃ! 我は笑い顔を見るのが大好きなのじゃ! 泣き顔を見るのは嫌いじゃ。千世殿の笑い顔はとても可愛いのう。それに美人じゃ!」

「羅技姫様ったら! 褒め過ぎですわ」

「我は嘘を言わぬ! 本当のことを言ったのじゃ。赤龍はやや子はまだ出来ないのか? と我に毎日五月蠅く聞くのだ。我と双子の妹の幸姫は、すでに五か月の身重になっておる。我と赤龍はどうも相性が悪いらしい。子が出来ないのは赤龍の方に非がある!  

あやつは荒々しくて我は嫌じゃ。もう少し優しいとその気になるのだが! 最近は妙に身体がだるくて、夜になる前には天女の館へ逃げ込んでおるのだ。悪戯をして驚かせてやる!」

「あ、あの……」

「何じゃ? 千世殿?」

「いえ、何でもありません」

千世は思わず羅技に言葉をかけようとしたが口をつむぎ、代わりに優しく微笑んだ。

「羅技姫様はとても不思議な御力をお持ちなのですね! 私、羅技姫様のお傍に居るだけで何だか羅技姫様の様に強くなれそうな気が致します」

「先ほどより妙にくすぐったいと思っていたのだが……。頼むから羅技姫様と連呼して下さるな! どうも姫様付けされると調子が狂う。千世殿は鳳炎昴龍様のお后様なのですから、どうか我を羅技と呼び捨てられよ」

「でも……。あっ!鳳炎昴龍様は龍王様よりお咎めを受けるのでしょうか?」

「鳳炎昴龍様がお咎めを受けない為にする悪戯なのじゃ! まあ、見ていて下され」

羅技は首飾りを外し、龍の頭の形をした笛を吹いた。

「あの……。音が聞こえませぬが?」

「これは赤龍しか聞こえないのじゃ!」

すると、程無なく龍王、赤龍、青龍、紗久弥姫が揃ってやって来た。羅技は青龍と紗久弥姫の姿に驚き、唖然とした。

「紗久弥? 何じゃ、その姿は? 何処かに戦にでも行くのか?」

「姉上様を御助けしようと、清姉上様が青龍様と私にこの衣装を作って下さいました。どうでしょうか、このペアルック」

「流石は我の妹じゃ! よく似合っているぞ! でも、我を助けるとは?」