一九四五年二月一五日、ブッシュは、スティムソンと原子力エネルギー問題について協議し、原爆の将来についての彼自身の考え方を、今こそ大統領に直接持ち出すときであると感じ、国際連合憲章の中に国際科学研究に関する条項を含ませることを進言した書簡を大統領に送りました。

この中でブッシュは、国際的な相互信頼の環境を作る必要があること、そのために核軍備競争の脅威に直面する世界においては、いかなる国も秘密に核兵器を生産しないことを保障する機関が必要になることを説きました。

この計画が成功すれば、それは、軍事応用の可能性を持つすべての科学研究に関する情報の完全交換とその国際管理のモデルとなるものでした。究極の目標は、すべての主要兵器システムを国家単位の管理から国際管理へ移すことでした。そして、原子爆弾は、そのテスト・ケースであるとブッシュは考えました。

アレクサンダー・ザックスの提案

一九四四年一一月には、アレクサンダー・ザックス(リーマン・ブラザーズ副社長。一九三九年一〇月一一日にシラードが起草したアインシュタインの手紙をルーズベルト大統領に面会して渡した人物)がホワイト・ハウスを訪れて、大統領に次のような四段階から成る政策を提案しました。

新兵器使用が、アメリカの道徳的リーダーシップの破壊につながることを懸念して、第一段階は、連合国および中立国から選ばれ、国際的に認められた科学者および主要宗教界代表の目前で、原子爆弾の完全公開実験を行う。

第二段階は、原子兵器の意味についての総合的な報告書を用意する。

第三段階では、アメリカ、イギリス、カナダがドイツおよび日本に対して、降伏しなければ、それぞれの国の特定地域を新兵器によって攻撃するという警告を与える。そしてこれが失敗した場合には、第四の最終段階として、即時降伏に応じなければ、それぞれの民族を原子爆弾によって全滅させるという最後通牒を突きつけるというものでした。

ザックスはのちに、彼の提案は「ルーズベルト大統領から好意的に受け取られた」と述懐していましたが、大統領がザックスの提案を誰かに話したという証拠はまったくありませんでした。これは前述したブッシュの提案についても同じでした。

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『人類はこうして核兵器を廃絶できる』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。