プロローグ 復讐の蒼閃

その山は闇に覆われていた。静寂が支配するはずの山中に、ズシーン、ズシーンという音が響く。闇の中で空気を震わせていたのは、二機の巨大な人型兵器である。数階建ての建物に匹敵する巨体を持ち、甲冑を思わせる重厚な外観を持つそれの名は「マジックギア」。人々には「マギ」の通称で呼ばれている。

「ダレン、そっちに行ったぞ!」

「くそ、そんなこと言ったって……!」

マギに搭乗している二名の操手(操縦士)が魔力を応用した「念話(テレパス)」で会話しながら、互いの状況を確認する。この世界「ギアメス」には魔力が満ちており、人々は当たり前のように魔法を使っている。魔法はあらゆる分野で発達し、終には最強の兵器たるマギをも作り出せるまでに至っていた。だが今、その最強の兵器たるマギが、何者かに追い詰められつつあった。

「うわああああああああああああああああああ!!」

絶叫。続いて夜の闇を引き裂く轟音が響き渡る。片腕と片足とを切り飛ばされ、マギの一機が崩れ落ちたのだ。

「く、くそ! 化物め……!」

残った一機が警戒を露わにし、首を周囲に巡らせる。操手が乗る機体、「ラーゼット」はとある国の制式採用機だ。全長は六セムス(約八メートル)、ずんぐりとした体形と何層にも重ねられた分厚い装甲を持ち、まるで鋼の塊が動いているかのような外観を持つ。

装飾も少なく、全身に魔力を送り込んで機体を稼働させる循環装置――肩部や大腿部に取り付けられている――にその国の象徴たる獅子の鬣の意匠が施されている程度。装飾を可能な限り排し、実利のみを求めたが故の無骨さは、より強く鋼の塊という印象を見る者に与えるだろう。しかし「敵」は、そんな鋼の塊ですら打ち倒す力がある。ラーゼットは手に持つ剣――マギ用の武器のため、こちらも数階建ての建物並の大きさがある――を構えた。

「いい加減鬱陶しいんだよ……さっさとくたばれ!!」

剣を振り回して周囲の木々をなぎ払う。切り飛ばされた木々が凄まじい勢いで飛んでいく。それが当たれば、倒すまでは行かないまでも十分なダメージを敵に与えることはできただろう。だが敵は、その程度で怯む程やわではなかった。

「なあ!?」

驚きの声をラーゼットの操手は上げる。飛ばした木々の何本かが、同じような勢いで打ち返されたからだ。しかもそれらの何本かは、ラーゼットの視界を司る頭部目がけて飛んできている。慌ててそれらを叩き落とし、全てが終わっていた。

「――――――――――――!!」

操手が声にならない悲鳴を上げる。彼が見たのは、放たれた矢のように突っ込んでくる人影だ。体を包む蒼い燐光。顔を隠す鬼種(オウガ)の仮面。そして肩に担ぐように構えた巨大な剣が操手の目に飛び込んできて、彼の視界は闇に落ちた。