ハリネズミのココ「これはたいへんなことになったわ。みきちゃん、ほんとにまったくもって、わたしたちのこと忘れてるわね」

クモ「ココがちゃんとせつめいしないからよ」

ハチ「みきちゃんたら、くいしんぼうなんだから。わたしたち、ドーナツに負けたのね。花よりだんごかしら。わたしは、花の方が好きよ。色とりどりの花にかこまれるなんて、なんて幸せなのかしら」

チョウ「あら、ハチさん。ハチさんがこっそり花ふんだんごを食べてるのを、わたし知ってるのよ。わたしは、みきちゃんの気持ちがわかるわ。おいしいものがいちばんよ」

ハチ「ゴホゴホ……。かぜかしら。あら、なんだか急にさむくなってきたわ。そんなことより、どうやったらみきちゃんはかえってきてくれるのかしら。あ、そうだわ。もういちど、みきちゃんに絵本をなげてもらったらどうかしら」

ハリネズミのココ「だめよ、そんなことしちゃ。絵本をなげるなんて、花をむしりとるのと同じくらいよくないことよ。それについうっかり、いたいなんていっちゃったから、なんだかこわいわ。わたしたちは、絵本にかかれてあることばしか、使っちゃいけないのよ。だってそんなことしたら、絵本の世界がぐちゃぐちゃになってしまうわ。おまけにとびだしちゃったりなんかして。わたし、なんてことしちゃったのかしら」

フクロウ「ココよ、こうしてはどうだろう。だれかに、わたしたちの絵本を読んでもらって、われわれの世界に入ってもらうことはできないだろうか」

ハリネズミのココ「フクロウさん、もしももしも、うまくいって、ほかのだれかに絵本を読んでもらっても、みきちゃんのような子はそういないわ。みきちゃんはいつも絵本の中で歩いていたもの。わたしたちが絵本から抜け出せたのも、みきちゃんの想像力があってこそよ。みきちゃんがもう少し、しっかりはなしを聞いてくれたらよかったのに」

ハチ「それは、ココも同じだとおもうけど……」

チョウがあわてて、ひらひらのはねでハチの口をふさぎました。

フクロウ「だれかのせいにしても、しかたないではないか。カタツムリどの、何かよい考えはないかのう?」

カタツムリ「……」

フクロウ「あいかわらず無口なやつじゃ。ほんとにどうすればよいかのう」

チョウ「こうなったらしかたないわ。みんなでまちましょう。みきちゃんが、わたしたちのことを思い出してくれるまで」

ハリネズミのココ「そうね。だけど、それまであのやっかいなドラゴンとすごさないといけないかとおもうと、つらいわ。しかも、わたしがうっかり声を出してしまったばっかりに、もしかしたらあの人がおこってるかもしれない」

クモも、ハチも、フクロウも、チョウも、カタツムリも、みんなぞっとしました。ドラゴンとはいったい何ものなのでしょう。そして、ココたちの願いとはいったい何なのか。なぞは深まるばかり。

※本記事は、2022年1月刊行の書籍『おるすばんなんてだいきらい』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。