「続いて先ほど話した前方後円墳と呼ばれている墳墓に纏わる話に戻りますよ。どっちが前でどっちが後なのか、誰が決めたのか呼び名は好きではありません。しかしこの形には意味があり、全てが私に由来するものです。

実は私の予言に必要だった銅鏡に銅鐸を単に重ね合わせただけの形なのです。後の世の人々があれこれ詮索したこととは違い、たまたまこの形になったというだけで、真実は意外と単純なものです。

銅鏡と銅鐸は私の陽の力を増幅させる役目を持ち、それ故にこの前方後円墳という形は地球のエネルギーを増幅する装置にもなっていたのです。今でいうパワースポットの強力なものですね。地震を起こす源となる蓄積された力を受けて勾玉側の意思が目覚め、まだ完全ではない微弱な力を使い、あなたたちを呼び寄せたのです。

ところがなにせ一筋縄ではいかないじゃじゃ馬が一人いたものでどうなることかと一苦労でした」

明日美が自覚したのか肩の横で小さく手を振っていた。

「そこでこの前方後円墳を使い、地震発生によって放出されたエネルギーを増幅し勾玉を通し連動して銅鏡側の意思が目覚めて私は完全に覚醒したというわけです。

次いでこの形態の墳墓が普及した理由について話します。私は眠りにつく直前、この墓の所在を隠すために封印を終了し、築造に携わった全ての人々がこの山を下りたと同時に、記憶がなくなるよう講じたのですが、それでも例外はいつの時にもあるものですね。おぼろげながら、記憶の片隅にその形体を残していた者が数名いたようなのです。その記憶消去の処置をおこなった頃には、すでに私の力が弱まっていたということなのでしょうね。

その形体の秘密を入手した極少数の超能力者が、墳墓に採用したのだと考えられます。しかしこの形体を使って覚醒できる者は我々一族の中でもほんの一部の者だけであり、それ以外の者にはあまり意味のない物なのです。

しかしながら若干であるものの、パワースポットであることには間違いなく、その形体だけが急速に伝播して権威の象徴となり大型化し、そして衰退していったと考えられるのです。その形体を利用して影響力を拡大していったヤマト政権と呼ばれた政治体制は、その頃の政治権力だと思われます。

それと佳津彦、あなたが奇異に思った銅鐸は、先ほど話したように私の力を高める必須アイテムでした。確かに一般的な銅鐸の使い方は現代の推測と合ってはいますが、情報伝達や時報に使っていたところも少なからず存在したと記憶しています。

それを手にした人々の生活の必要性で異なったのでしょうね。私はすべてを同等に考える必要はないと思うのですがあなたたちはどう考えますか」

「同感です。私ならひっくり返してくずかごに使います。姫様」

明日美が答えた。佳津彦は、

「植木鉢がいいです」

ぼそりと言った。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『魏志倭人外伝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。