「あっ、すみません! すみません!」

ドライバーらしき声がした。さっそく主任が小言を言っている。配送主任にもしぼられてきたらしい。当然だ。愛結香は愛想笑いをしているらしい気配がしたが、真弓はそんなことはしない。

「あの、すみません。本当に」

ドライバーは真弓にも声をかけてきた。真弓は顔を上げながら一気に言った。

「あのね、謝らなきゃいけないのは取引先さんでしょう? お客様でしょう? はい、あなたも一緒に拾って」

オリコンを渡しながら顔を見た。三十才そこそこに見える男性ドライバーは「あ、はい」と言ってオリコンを受け取った。顔はマスクでよくわからなかったが、そろそろ切ったら? と言いたくなる中途半端な長さの髪の毛がキャップから出ていた。なんだかちょっと苦手だと真弓は思った。

代替え品の手配がなんとかなってくれて助かった。包装が破れた商品は廃棄。包装が無事だったものも売り物にはできないので社員たちに分けられ、残った物はやはり廃棄だ。方々に迷惑をかけてしまい、損害金も発生する。ドライバーの顔色が悪くなった。

この繁忙期に同僚のドライバーがインフルエンザで急に休んだため、同僚の担当店舗まで配送しなければならなくなったらしい。気の毒ではあるが起きてしまったことは残念ながらどうにもならない。だがミスは誰にでもあるのだ。真弓はこのことに動揺して運転に支障が出ては困ると思い、肩を落として立っているドライバーに笑顔で声をかけた。

「さあ、商品積み込むよ。手伝うから。運転、落ち着いてできるよね?」

ドライバーはぽけーっとして真弓の顔を見た。

「ね?」

真弓はドライバーの顔をちょっとのぞき込むような感じでもう一度言った。

「……はい!」

弾かれたように返事をして、駆け足でトラックのリヤドアを開けに行った。この一騒動で午前中の大半が消費され、昼休憩までの時間は戦いだった。いつもなら愛結香の笑い声が聞こえる事務室が殺伐としていた。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『願わくは今この瞬間が、ささやかな幸せのはじまりでありますように』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。