【前回の記事を読む】田舎暮らしの俺を訪ねてきた憧れの人「青春時代に戻った気分」


スタート

車を数分走らせ畑に着いた。すると、二人はあんぐりと口を開けてしまった。

「え? これがあなたの畑? こんなに広いの? この広さを一人で毎日作業してるの?」

「まだまだ可愛いもんだよ。周りの農家の人たちとは比べものにならないよ」

「ごめんね。それなのに上京までしてもらって、私たちの面倒も見てもらって。ホントにありがと」

「あまり気にするなって。大変だけど俺が好んでやっていることなんだから。さ、お腹空いたから早く食べに行こ」

また車に乗り食事処へと向かった。周りに見えるのは生い茂った木々や田んぼしかなく、二人にとっては却って新鮮に感じられた様子だった。

「さあ着いたよ」

「へえ~。ここがお食事処?」

「ホントに何もないところだからさ。ごめんね」

「全然平気」

「僕も」

各々好きなものを選んだ。俺はとんかつ定食、彼女はカレーライス、翔太くんはハンバーグ定食を食べた。

「あ~。お腹いっぱい。田舎の食堂で出てくる量って半端ないよね」

「僕にはちょうどの量」

「俺も結構腹がパンパン。この後どうする?」

「君に任せるわ」

「そうだなあ~。……じゃあ、この辺りでもちょっと名の知れたパワースポットを案内しよう」

「いいね。そういう女性ウケするような場所。この町に越して良かったと思うような魅力的なものが一つくらいないと。移住の決め手にはうってつけね」

「そっか。ホント感動してもらえると思うから。じゃあ出発しよう」

また車を走らせ、音楽をかけながら狭い道をかき分けて進んだ。だんだん山道になり、車一台しか通れない狭い道を通っていたその時、辺りが明るく開けたかと思うとそこには一面の青々とした景色が見えてきた。

「ほら。見えてきたよ」

「すご~い。なんて素敵な場所」

「ホントだね」

と翔太くんも思わずビックリしていた。そこは山と山の合間にできた、透明感あふれるスカイブルーに輝く池だった。透明度も高く、かつ神秘的な雰囲気に満ちている。夏休みは子供の遊び場にもなり、近くに流れる小川には川魚も棲みつき、釣り人にも人気のある、町の人なら必ずや訪れる絶景スポットだ。

「素敵~。やっぱりここに住みたいわ」

「母さんがそうしたいなら僕もついていくよ」

「ホント?ありがと。翔ちゃん」

「でも、お父さんをまず口説き落とさないとね」

「頑張ってね」

「ああ」

三人はその神秘的な景色を一時間近く眺め、それぞれの想いに耽った。彼女や翔太くんにはどう映ったかは分からないが連れてきて良かった。

「じゃあ、寒くなってきたから家に戻ろうか」

「うん」

今日は楽しく一夜を過ごした。俺が作った夕飯を食べ、お笑い番組を見て笑い、お風呂に入り、川の字になって寝た。一人暮らしも快適だが、たくさん人がいるとにぎやかで楽しい。秋夜に鳴く虫たちのコーラスと同調し、とてもリズミカルなワルツを生み、目一杯この瞬間を楽しんでいる自分がいた。

翌日目が覚め、朝食を食べ、駅まで二人を送り届けた後、いつもと変わらぬ畑仕事をして一日が終わった。いつもと変わらない日常だが、二人が帰った後だけに今日は寂しい。

(ああ。一日でも早く三人で家族になりたい……)