「あっ、ごめんごめん。さっき仕事から帰って来て玄関入ったらさ、バスケットに寝かされた赤ちゃんがいたんだよ。おれには心当たりなんか全然なくてさ、でも可愛かったからひとまず部屋に入れたんだよ。しばらく見てたら、今起きて笑いかけてきたから何をどうしたらいいのかわからなくて、とりあえずおやじさんに電話したんだよ」

「まいったな、うちには母さんはいないぞ~」

おやじさんは普通に少しちゃかすような言い方でそう言った。

「わかってるよ!! こういうのって警察とかに届けなきゃだめなんだよな」

「そうだな。だが実の親か誰かがお前なんかのところにわざわざ置いていったんだろう……父さんが察するに事情があって泣く泣く置いていったんだと思うぞ。だから、そんなにすぐに警察へ連れて行かず、お前が世話してやったらどうだ?」

少し間を取りながらおやじさんはゆっくりこう言った。

「お前、明日から三日間休みなんだろう。世話してみたらどうだ?」

母さんの死後、おれと妹を男手一つで育てたおやじさん。なんか不思議と予想できる返答だった。おやじさんが手伝ってくれるのだろうと勝手に思い込んだおれはすんなり納得した。

「わかったよ。じゃあさ、これから家に来てくれよ」

おれが頼むとおやじさんはものの数分でアパートに来てくれた。

「華ちゃん♡っていうんだなこの子」

玄関に置いてあった名前入りのバッグを持っておやじさんが部屋に入ってきた。それはなかなかでかいバッグだった。

「どーれっ、華ちゃんおじちゃんが抱っこしてみましょうかね~」

おやじさんは満面の笑みでそう言うと慣れた手つきで軽々と赤ちゃんを抱いた。

「むちむちだけど柔らかい。良い子だぞ~ほら」

そう言うとおやじさんはその子の顔をおれに向けた。その子はまんまるの大きな目でおれを見るとまた笑ってくれた。

「わぁ~オムツいっぱいだぞ」

そう言いながらおやじさんはおれにその子を抱かせて、さっき玄関から持ってきたでかいバッグの中をあさった。そこから、オムツと尻ふきを取り出し、同時にタンスからバスタオルも出してきて、床のカーペットの上にタオルを敷きそこにその子をそっと寝かせ、手際よくオムツ替えをした。ちゃんと尻ふきで股を拭いてからオムツをさせた。

おやじさんのその手際の良いオムツ替えに正直感心した。おれと妹を男手一つで育てたとはいえ、もう二十年以上前の経験のはずなのに、昨日まで子育てしてた育メンのように本当に手際が良かった。

「すげーなおやじさん」

それ以外何も言えなかった。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『君と抱く/夢想ペン作家日和』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。