第一章 意識とは

意識とは何であろうか? 意識は感じたり考えたりする精神活動を担う主体といったイメージをお持ちの方が多いのではないだろうか。意識に関するさまざまな書籍・文献を読むと、「意識」という単語が異なった意味で使用されていることがある(参考文献※1)。

そして、「意識」が何を意味しているかの定義が不明確な状態では話がかみ合わない。「意識」には大きく分けて少なくとも三通りの意味がある(参考文献※2)。「第一の意識」は、医師が意識レベルと表現する際の「意識」で、目覚めている、寝ている、昏睡(こんすい)状態といった人の覚醒(かくせい)状態を表現している。この「第一の意識」は、通常私たちが持っている「意識」のイメージよりも単純かつ機械的で、型にはまった脳・神経系のはたらきを示す単語になっている。

第二の意識」は、気がついている状態を示している。ある事物に注意が向いてそのことに気づいているときに、「意識」しているといった表現が使われる。私たちは常時多くの感覚入力を受けているが、その多くには注意が向かうことはなく、「意識」されず、それらは「無意識」の状態で処理されている。

ただし、意識されない情報にも私たちの体は反射的な応答をするし、意識されていないことが行動選択にも影響を及ぼす。「第三の意識」は、自己の状態を観察・内省(ないせい)して思考する「意識」である。デカルトが記した「我思う」の「我」である。この「第三の意識」がもっとも高次で、心の本体に近いものである。

このように、「第二、第三の意識」は主観的な現象あるいは体験を表現しており、定義の共有化が難しい単語である。そして、何を意味しているかがあいまいだと、なんとなく分かった気になることはあっても、「意識」の分析や考察の共有性または客観性に乏しくなり、真の理解を得ることが困難になってしまう。

以降では各々の「意識」について説明していくが、各「意識」の内容を明確にしつつ、その分析と各々の神経科学的な基盤について検討していこうと思う。

第二章 医学的意識(第一の意識)

医師は医学的に適切な対応をするために、意識・覚醒(かくせい)レベルについて医学的な判断を行うことがあり、各レベルについての判断基準が定められている。ジャパン・コマ・スケールおよびグラスゴー・コマ・スケールによって設定された基準が知られている。以下で各々の判断基準を具体的に説明するが、ここで説明する「第一の意識」は、主観的な自己体験というよりも脳・神経系の外形的な応答性を表している。

ジャパン・コマ・スケールの基準は、Ⅰ刺激しないでも覚醒している、Ⅱ刺激すると覚醒する、Ⅲ刺激しても覚醒しない、という3レベルに大別され、さらに各レベルに細分レベルがある。Ⅰには、意識清明、時・場所または人物が分からない、氏名または生年月日が分からない、の3レベルがある。Ⅱでは開眼に着目し、普通の呼びかけで開眼、大きな声または体を揺さぶると開眼、痛み刺激と呼びかけの反復で開眼、の3レベルがある。

そしてⅢでは痛み刺激に対する応答に注目して、はらいのけ応答、手足を動かすか顔をしかめる、反応しない、の3レベルがある。ⅡおよびⅢのレベルは、反射応答の程度による分類と考えられ、これらは通常「無意識」の応答と判断する現象である。ただし、レベルⅠでは「第三の意識」に関係すると見なせる、自分のおかれた状況を判断する見当(けんとう)(しき)のはたらき具合が評価されている。

 

※1:・意識とは何か、苧阪直行著、1996、岩波科学ライブラリ─

・ 意識の探求 神経科学からのアプローチ、クリストフ・コッホ著、土谷尚嗣、金井良太訳、2006、岩波書店

・脳の意識 機械の意識、渡辺正峰著、2017、中公新書

・クオリアと人工意識、茂木健一郎著、2020、講談社現代新書

・What is consciousness, and could machines have it ? Dehaene S, Lau H, Kouider S. 2017, Science 358, 486-492

・Origin and evolution of human consciousness. Fabbro F, Cantone D, Feruglio S, Crescentini C. 2019,Progress in Brain Research 250, 317-343

・The disunity of consciousness. Zeki S. 2008, Progress in Brain Research 168, 11-18

※2:意識とは何か、苧阪直行著、1996、岩波科学ライブラリ─