プロローグ 雑草の街

「とんでもない景色を見たかったら松平市に行ってみな」

昨今巷やネットでよく呟かれている話題の場所、松平市。そこが俺の、でっかい仕事場だ──。いつものように朝の打ち合わせが済むと、事務所を出て、俺たちは準備に取り掛かる。色とりどりのつなぎ作業服に身を包んだ男女十八人は、駐車場にある九台の軽トラに、エンジン草刈り機や燃料、除草剤を撒く噴霧器、スコップ、PPガラ袋、ゴーグル、防塵マスクなどを積み込むと、「じゃあ今日も怪我なくいこうぜ」という俺の掛け声とともに、二人一組のペアとなって、それぞれの現場へと散っていった。

俺もまた軽トラに乗り込み、出動する。上々の天気だ。窓を開けると十月の朝の風が気持ちいい。俺の今日の相棒は、ピンク色のつなぎを着たアツミちゃんで、何かの鼻歌を囁きながら、助手席で作業の資料を眺めている。

「あ、そうなんだあ」とアツミちゃんが呟いたので、「なにが?」と訊ねる。

「今日の現場って、わたしが前に住んでたアパートみたいなんです」

「そっかあ。何ヶ月くらい前に壊したの?」

「四月のはずだから、もう半年くらい前かなあ?」

「夏場を挟んだからな、雑草も伸びるわけだよ」

「今日も大変そうですね」

甘ったるい声でため息を漏らすが、実は根性のある()であることは、雇って三ヶ月になるので分かっている。今日の現場は松平市小平町四十三番地にあり、アツミちゃんが言っていた通り、以前はアパートが建っていたところで、今は更地になっている。雑草がけっこう生えてしまったので、刈ってほしいと依頼された。

俺の会社『除草屋QゴーQ』は館野市にあり、隣の松平市の現場までは二十分ほどの距離だ。朝の通勤で多少混んでいる県道を、軽トラはのんびり走る。住宅、商店、低いオフィスビル、街路樹、いつもの見慣れた当たり前の景色が通過していく。ファミレス『マルコボーノ』が見えてきた。昨夜従業員たちを誘って食べに行ったイタリアンレストランだ。次はいつ行くかな? などと考えているうち、館野市と松平市の市境が近づいてくる。

ほどなくして市境の交差点に至ると、いつものように警備員が立っていて、彼に通行証を提示する。ここから先は、一般人が立ち入ってはならない地帯となっているのだ。警備員から了解をもらうと、軽トラは松平市に入場する。すると景色は一変した。