【前回の記事を読む】生きがいに迷いが…まじめな青年の思い描いた生活のほころび

来栖・葛城・真理の三角関係

葛城と真理の二人が短い婚約期を経て結婚に至ったのも割合早く、およそ半年間ですべての世間的しきたりを終えたようだった。

婚約期の前後から二人は音楽サロンが開かれる曜日ではなく、別に会う日を取り決めて親密になっていたようだ。来栖のほうはこのような成行きに至っても、葛城に対し嫉妬といった感情は湧いてこない。後悔する気持ちにもならない。

二〇代後半のあたりから私的な人間関係では競争心とか対抗心というような意欲、ないしは情熱というものがなくなっていき、早くに老成してしまったかと自問する始末だ。

このような成り行きを自然の流れと受けとめている。その彼に湧いてくる感情はというと、ほんのりとした寂しさだけで、臨機応変の行動をとれないままに結局は異性の相手を自分のものにできなかったので後悔するというようなものではなかった。

むしろ昔を振り返り、高校生の頃の対人関係で人とうまくつき合えなかった性癖がまだこの年になっても残っていたかと自分で自分を憐れむといった気持ちだった。そして異性と長く結びついてしまうことになりそうな将来が見えてしまうと、最後の土壇場で逃げる、もしくは身を退いてしまう。

この行動に出るのはいつも自身の自発的決断によるものだとは、はっきり自覚していた。