家族は家長の母リームと父ウトバ、イバーの夫、長女ダリアと長男マツダーク、孫のリオとリナの10人家族。

緊急事態発令で孫たちも学校から急遽帰ってきた。ダリアの夫は職場を離れられないが家族9人が家にそろった。リームがまず食料を確保しなくてはと食料店に出かけるが、もはや残っているものは何もない。仕方なく自宅にある食料をかき集め段ボールに詰める。ウトバはしばらく避難生活をすることになるからと衣料品を整理する。イバーは飲料水を確保する。孫たちは学校の教科書や、おやつをカバンや手提げ袋に準備している。

「落下まで35時間のアナウンスが町に流れる」

全員で150キロメートル先の山の中にある保養施設「市民憩いの宿」に向かうことにした。車に全ての荷物と、宿が取れなかった時の野外テントをもって出発した。

出発して70キロメートルほど来たところで渋滞が始まった。山に向かって長蛇の列である。1時間で10キロメートルほどしか進まない。反対車線も山に向かって車が並ぶ、交通を整理する警察もいない。もはや行くことも戻ることもできない状況である。一夜が明けても状況は変わらない、1晩で進んだ距離は20キロメートル程度でしかない。

そんな、にっちもさっちもいかない状況の中、すでに家を出てから24時間以上かかっている。目的地まではまだ40キロメートルはあるが、隕石の衝突まであと10時間以下となってしまった。ここで車を捨てて歩いて避難することにした。体力的にも精神的にももはやくたくたで限界に来ている。すでに多くの家族が歩き出した。

8人で持てるだけの荷物を持って歩き出し、2時間も歩くと孫のリオとリナが歩けなくなり、もう動けないと泣きべそになって訴える。それでも休み休み高台を目指し励ましあいながら進むが、荷物を持っているので遂に動けなくなってしまった。絶望と惨めさだけが襲い掛かってくる。

少しの望みをかけて、道をはずれた小高い丘の中腹にテントを張ることになった。周りも同じような家族が何軒も身を寄せ合っている。そして一夜が明けた時、「わあー」とダリアが大きな声を上げた。

隕石の落下が始まったのだ、まるで太陽が落ちてくるような明るさの火の玉が天空を横切り、スローモーション映画のように地平線のかなたに落ちていく。まぶしさで目を開けていられないほどである。マツダークが「ひゃーまぶしい」人々がその火の玉を見送り地平線に消えた。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『リップ―Rep―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。