【前回の記事を読む】突如地上に接近した巨大隕石。避けられない悲劇の原因は…

第1章 巨大隕石落下

政府は免れることのできない重大事態に、隕石の落下の真実を隠し通そうとしていたのだが、さらに混乱がエスカレートしていく。この地球上ではいかなるところに逃げようとも助かる道はないのであるが、それでは絶望しかないので、全滅になる事実だけは発表されなかった。100%死にゆく人々に対するせめてもの慰めからである。

市内が大混乱する中、地球上の全生命絶滅のシナリオが確実に進んでいく。この災難から生命を存続させるために政府は、持ちうる限りのロケットを宇宙に向けて発進、宇宙船や月基地に食料を送る。海洋に大型船で避難するもの、深海艇で海深く逃げるもの、この一瞬を退避すれば助かると思う多くの市民は必死の避難を始めた。

しかし隕石の落下は悲劇のほんの始まりでしかなかった。そして、このような事態を引き起こしたのは、自分たちが実行していた隕石回収作戦の失敗であったのだが、その事実も伏せられた。どうせこの世の中が消えてなくなるのだから隠しても仕方のないことなのであるが。

陣頭指揮を執ってきた大統領にも避難の時が迫ってきた。

「大統領、最後のロケットの打ち上げが迫っています。月基地に避難してください」

「いや私は地球の責任者としてこの場に残る」

(大統領は、自分が政治家として世界を終局に向かわせたという、自殺したいほどの自責の念を感じていた)

「私の代わりに若い者を避難させてくれ、この惨事の後の復興のために1人でも多くの若い者を残したい」

「了解です」

大統領の決断に誰1人声を上げるものはいない。絶望の中で極限の決断が続く。

落下までのカウントダウンが始まった。「落下衝突まであと50時間」と、女性の音声ガイドが響く。

SNSでは流言飛語フェイクニュースが飛び交う。もはや市民はなにを信じていいのかわからない。政府の発表がかき消され逃げ惑う市民で町の大混乱は続いていく。

最後は家族と過ごしたいと地下室に逃げ込むもの、少しでも高いところにと移動するもの、津波を避けるために大海に船をこぎだすもの、隕石の落下を見たいと高台に登るものや、プライベートジェットで空に飛ぶ準備をするもの、無法と化した町の中を略奪に走るものもいる。

市民はこの後に来る本当の悲劇を知ることなく、混乱の中でカウントダウンは続く。

「落下衝突まで40時間」

避難を開始したイバー家族を追ってみよう。