【前回の記事を読む】女帝看護教員の教育改革作戦!しかし、肝心の副学長の反応は…

国田克美という女

八月下旬に国田より村山学校長に「来年度入試問題は段ボール箱に入れ、封印し、施錠できる倉庫に保管を完了しました」との報告があった。同時に次年度の学生募集要項も印刷する必要があったため、村山、久船、国田の三者による会合が学校長室で九月上旬の木曜日午後に開催された。

久船は入試問題で次々年度より理科(生物学)の削除を提案した。

「試験科目は少ない方が、受験生が増加する見込みがあるので、科目は国語(現代文)、数学、英語のみで良いと思うが、国田先生どうでしょうか」

国田は「看護学は人間を観察し、看護する学問ですので、生物学は絶対必要です。入試科目を減らすことには反対です」と声を大にして言った。また、「今までの三回の本校の入試においては受験生は増加していることから、入試科目の変更は必要ないと思います」とも続けた。

村山は、国田の顔が紅潮してきたのを見届けて「わしらは口出しせずに国田に任せてやろうや」と言って早々に議論を打ち切ろうとした。久船は村山の「おとっつあん」に従うしかなかった。やはり久船は副学校長でありながら、国田の言う通りの案を受け入れざるを得なかった。

次に久船は推薦入試を提案した。

「国田先生、入試科目は現状のままでいくとして、推薦入試を導入してはどうでしょうか。推薦入試をすれば受験生はさらに増加し、優秀な生徒も本校を受験するかもしれないし、良いのではないですか」

「うちの学校は一般入試で受験生が増加しているので、その必要はないでしょう」

国田はけんもほろろに久船の案を断った。国田の顔は眼を大きく開き、不機嫌になった。村山は国田を怒らせてはいけないと思い、「では、このままの入試でしばらくいこうじゃないか」と言って入試論議の打ち切りを促して、三者会議は終了した。

久船は眉間に皺を寄せたまま、沈黙していた。

国田は自分が発案したこと、例えば合宿研修などは予算もないのに強引に実施するくせに、医師会側の意見には聴く耳を持たないことに久船は苛立ちを感じた。

国田は出自から察するように過去に医師に対する反感の持主であり、反射的に医師には対抗しようとする性格の持主である。本来ならば、このような試験科目の変更に関する議論は学校運営委員会で図られなければならないが、三人で決定したことが、そのまま実行されるということになり、学校運営委員会は形骸化されるようになった。