【前回の記事を読む】陶芸教室で出会った男女「飄々とした彼のペースにはまった」

のぞみの結末

10

陶芸教室の無料体験会に参加した日、まわりは年配の女性ばかりだった。その中に一人だけ自分と年齢の近い人がいた。それが前原希代美だった。

希代美は陶芸について何も知らない私に、一から丁寧に教えてくれた。教室が終わって、二人で夕食に行った。希代美は淳美より二つ年上だった。初対面では緊張してしまい、うまく話せない淳美だったが、希代美とはなぜか最初から打ち解けて話ができた。あかねや他の友達といても、どうしても一歩引いてしまう性格だったが、希代美には何も遠慮せずに話すことができた。希代美といると自然体でいられる気がした。

淳美は陶芸教室への入会を決めた。陶芸教室が終わると、二人は夕食に行くのが習慣になった。希代美は一度離婚していることを話し、新たな出会いを探していることを話した。淳美は夫婦生活の不満について希代美に愚痴を言った。お互いが自分の本音をぶつけ、お互いがお互いの話を率直に受けとめ、感想や意見を述べた。それは淳美にとっても、希代美にとっても居心地のいい時間だった。

淳美は夫の光彦が自分の友人と浮気をしているのではないかと感じていることも希代美に話した。希代美ははっきりした証拠をつかまなければいけないと憤り、自分も協力すると言ってくれた。そこで希代美が考えだしたのが、あの手紙だった。

会社名は希代美の「希」を取って「のぞみ企画」とした。この手紙を見て、光彦かあかねのどちらかでも相談してくれば、浮気の証拠をつかめるかもしれない。電話が来なければ、また違う方法を考えればいいと希代美は言った。もし光彦の浮気相手があかねだとすれば、積極的なあかねのことだから電話する確率は非常に高い。事実、手紙もあかねが持っていった。

幸い光彦もあかねも前原希代美のことを知らない。光彦とあかねに手紙への興味を抱かせるのは淳美の仕事だった。光彦の前で手紙を読み上げた。あかねに見えやすい場所に手紙を置いた。後は、あかねか光彦から電話が来るのを待つだけだった。

『獲物は喰いついた』

希代美からのメールを見て、淳美はすぐに希代美へ電話をかけた。連絡してきたのは、やはりあかねだった。光彦が親友のあかねと浮気していた事実には冷静だった淳美だったが、あかねが自分たち夫婦を別れさせようとしていることを聞いて、ひどいショックを受けた。

それと同時にあかねの誘いを断り切れずにいる光彦も許せなかった。仲谷春樹と出会って、光彦への物足りなさの原因がわかった気がした。光彦には春樹のように女性を引っ張っていく積極性がない。光彦には春樹のようなユーモアやスマートさがない。春樹は「淳美の好きな店でいいよ」などとは絶対に言わない。行く店は決めてくれるし、選ぶ店のセンスもいい。

淳美の言うことを聞いてくれていたのは、光彦が優しかったからではなかった。ただ何も決められなかっただけだったのだ。