【前回の記事を読む】 神様は、自分に乗り越えられない試練は与えないと、信じた。

未来への手紙と風の女

“YOKOHAMA”を口に含む。友人のバーテンダーが問いかけてくる。

「今日は何かいいことがあったのかい?」

「どうしてそう思うの?」

と聞き返すと、「今、少し笑ったからさ」と言う。

そうか、僕は笑ったのか。まだ僕にも笑顔になる余裕があったのか。そう思うと、少し気が楽になってきた。風の女に誘われ、僕は過去を思い出した。ディスコで会ったあの女性のことを思い出した。

「ほら、例の、彼女のことを思い出したのさ」

僕は、友人にそう答えた。バーテンダーの友人は、「そうか」と言って、カウンターの向こうで、少し微笑みながらグラスを磨き始めた。あの頃のバーテンダーと同じように、丁寧にゆっくりと磨いている。そんな彼を見ながら、僕の想念はまた浮遊を始めた。

僕は、大切な人に伝えたいことがある。そう大切な人に。肉親もそうだ。僕のDNAを、過去からつないできてくれた父と母が出会い、そして母に宿ったことへの想い。僕は、僕につながれたDNAを次に伝えなくてはいけない。そして、これから、出会うであろう大切な人への想い。

何を伝えたいのか、それは相手によってそれぞれ変わる。僕を生み、育ててくれた母への想い。僕を陰ながら見守ってくれていた父への想い。それは、言葉では言い表せない。心の奥深くで、思い続けているしかない。これから出会うであろう大切な人。その人にもつながれてきたDNAが宿っている。僕のDNAと、その人のDNAが結ばれて、新たなDNAが生まれる。何ということだ。僕はその人にちゃんと言葉で伝えなくてはいけない。── ありがとう。と。