私、小鳥遊(たかなし)志津(しづ)()、61歳。看護師歴37年、独身(バツ2)個人病院の看護部長として業務に追われる日々を送っている。

「タカナシです。今は姓が変わって東野と申します。突然のメールで驚きました。私も元気にしております。まだまだ現役でナースをしております。」

「驚かせてすみません。病弱でひ弱な男の私には憧れのナースさんを続けておられるのですね。」

突然のメール。40年近くも音信不通であったのに、こんなことってあるのだろうか。神様の悪戯か、それとも神様が私を試しているのだろうか。でも、どうして今更連絡なんかしてくるのだろう。もしかして、お金に困っているのだろうか。

「相原さん、何かお困りのことがあるのですか?」

「この歳ですから……それなりに年相応のことはありますが、特に主だった病気はありません。認知症もないようです。君のことは忘れていませんから。」

私だって忘れてなんかいない。彼が家業を継いで会社の社長になったこと、その会社がショッピングモールにお店を出していることをネットで調べて知っていた。いつかそのお店をこっそり訪ね、遠くから彼を見て、「ああ、年取ったなぁ」って、一人で笑って昔の思い出を懐かしみたいと思っていた。なのに、そちらから連絡してくるなんて想定外。それでは私の計画が狂ってしまう。

「私も忘れていないですよ、若かった頃の素敵な思い出なので、私は山あり谷ありの人生だったから、老後は穏やかに過ごしたいです。ご連絡ありがとうございました。」

ところが、そのお店の情報が一週間くらい前にネットで見ると載っていない。まさか倒産したのか。彼に何があったのだろうか。会ってみたい。でも何かトラブルがあるのかもしれない。このまま一回きりのメールで終わらせてしまうのか、どうする私……。逡巡(しゅんじゅん)していると、追い打ちをかけるように彼からメールが来た。

「これ以上は連絡しないほうがいいですよね。死にかけたら、ナースさん助けて~って連絡しますから。」

そう、これ以上彼と関わってはいけないと頭でわかっていながら期待している自分がいる。死にかけたらとか何とかメンドクサイことを言って、彼も期待しているのかもしれない。しかし、この段階ですぐに会ったりすれば、あまりにも軽々しい女に思われるかもしれないし、彼に何らかの事情があって、厄介なことに巻き込まれても困る。どう返せばいいだろう……。

「そんなに固く考えなくてもいいですよ。いつでも何でも気楽に相談してくださって大丈夫ですよ。私は独身なので、怖い旦那は出てきませんから(笑)。」

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『 終恋 —SHUREN—』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。