第3章 AI INFLUENCE

第2項 H2=水素分子

束ねるコンセプトが揺るぎなく確立されており高度な完成度のシステムが行動のおおよそを決めてくれる空間が多くの人間にとって心地よいということは、ディズニーランドで既に立証されていることだ。どの順番でお気に入りのアトラクションに乗るか、どのグッズを自らの或いは友達のお土産として買い物カゴに入れるか、を除けばあなたは殆ど何を決める必要もなく、1日を快適に明るく爽やかな解放感をもって王国の中で満喫することが出来る。

あなたを待ち受ける種々の彩りのアトラクション。有事にはスタッフが優しく微笑みかけガイドしてくれる。アトラクションにも一息ついて歩き疲れる頃にはパレードが来る。これらはシステムに基づいた決定事項であり、ゆえに、磐石の安心感をもってあなたを始めから終わりまでガイドする。

例えば春先の井の頭公園を散策するように、季節の野花や会話の種となる観察の対象を探したり、フリスビーを持ち込み一緒に交互に投げてみたり、道すがらのストリートミュージシャンの演奏を試みに聞いてみたり、その時々にあって楽しみ方を模索する必要はない。少し高額のチケット代を払っても余りある、家族サービスやデートの王道プランに、ディズニーランドは、四半世紀以上にも渡り君臨し続けている。

人々は、既に決定されたものを享受することが元より好きだ。つい数年前まで自らの判断で決めなければならなかった多くの事柄が、人工知能のガイドと検索で解決されつつある。

仕事選びも、恋人探しも、結婚も、老いてからに備える保険も、目的地への輸送機関の乗り継ぎも、あなたが見るべき動画、聴くべき音楽も、アクセル・ブレーキのタイミングも、或いは将棋の次の一手も、既に、もしくはもうじき、人工知能が解決してくれる。人々は、答を求めて小さなスマホの画面を見つめ、指先を小刻みに器用にスライドする。

一つの季節を無心に鳴く秋の虫と異なり、人間の生活はなんと煩雑(はんざつ)な事だろう。我々の目の前に横たわる、生きていくために選択しなければならない諸問題。しかし、今やそれらは人工知能を駆使する事により効率よく安心に着実に解決される。

あなたは目的を設定し、それから自分の情報、すなわち年齢、性別、学歴、現収入、現在位置、聞く音楽のジャンル、好きな食物、等々(条件、すなわちスタートラインだ)を正確に正直に開示するだけでよい。それだけで、あなたは最も収益性の良い、或いは期待値の高い答を得ることが出来る。

個々の選択肢は解に換わり、解決される。が、それはあなたが決めているのではない。かといって決めてもらっているのでもない。人工知能はあなたを見ているわけではないのだから。“当て嵌(は)めている”のだ。人々は、自らの好み・独断で判断しうる権利を放棄し、自分以外のものに自らを当て嵌められる事により、抽象的な解を導き出している。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『人間を見つめる希望のAI論』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。