【前回の記事を読む】一難去ってまた一難。宇宙船のマザーコンピューターに迫る危機

苦難の刻

3日後、木の葉のようにふらつくウラシマの復旧プログラムの大部分が動き出した。ウラシマの第一コントロールルームは、船の前方にあり通常はそれが船の運航をすべて行なっている。しかし、船の運航に支障が出て復旧できないときは、居住棟の後方にある第一と全く同じ機能を持った第二コントロールルームが運航を代わる仕組みになっている。

この第二コントロールルームが起動を開始して、マザーが全面復活し、姿勢制御を取り戻したのであるが、今度は自分の位置を見失ってしまった。一度見失った星座位置を補正することができない。ウラシマは自分の位置を星座から割り出せなくなってしまった。これは、太平洋のど真ん中で羅針盤をなくした船のようなものである。宇宙では東西南北が無い、頼りになるのは星座の方向だけである。

しかし、その星座はすべて地球から観察したときの位置関係であるから、ウラシマのように地球から遥か遠くに来てしまうと、地球上で決めた星座の位置が全く違ってしまうことになる。乙姫は、運行しながら新しい星座位置を作り続けてきたのであるが、そのデータが消えてしまったのである。一度見失った星の位置関係を探し出し、もとの軌道に戻るのは極めて困難なことになる。

マザーの中で、電子状態でいる天文学者の星野が、望遠鏡を操って星の観測を始めた。何万と輝く星の中から目標としているオリオン座を探しているのだ。正常に戻った乙姫も星野の観測に加わった。放射線の津波に遭遇してからの想定軌道を、乙姫がマザーを使って計算する。そして、星野に方角と距離を教える地道な観測である。望遠鏡を覗き続けて1週間、目標とする冬の第3画三つ星が確認できた。乙姫は軌道をもとに戻すことに成功し、ウラシマは宇宙の放浪者にならずに済んだ。