これを後の人は「メンデルの遺伝の法則の再発見」と呼んだのであった。この年から遺伝学が誕生することとなったのである。メンデルが遺伝の法則を発見できたのは、29歳から31歳にかけて憧れのウィーン大学の聴講生になれたことが大きな要因であった。

ウィーン大学で博物学のみならず、数学、物理学、化学も熱心に勉強した。ウィーンとブリュン、音楽の大天才モーツァルトと遺伝学の大天才メンデルが同じ地に足跡を残したことは大変感慨深い。私が生物学の中でも特に遺伝学に興味があり、研究もマウスの毛色遺伝子の研究を行ってきたことと、小学生の時からモーツァルトの音楽が大好きであったことを考えると、何かとても不思議な縁を感じるのである。

私の人生の恩師とも言える二人の大天才には感謝の気持ちでいっぱいなのである。この天然痘の流行が収まってから、モーツァルト一家はウィーンに戻った。モーツァルトは1768年11月頃にこの曲を完成させたと考えられている。12歳の少年が当時のザルツブルクのカトリック教会の典礼音楽について詳しく勉強して、立派な音楽を完成させたというのはただただ驚くばかりである。

編成は、独唱(ソプラノ、アルト、テノール、バス)、混声四部合唱、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、トロンボーン3、コントラバス、オルガンである。演奏時間は全体で20分に及ぶ。各楽章は一定の順で並んでおり、第1楽章キリエ(あわれみの讃歌)、第2楽章グローリア(栄光の讃歌)、第3楽章クレード(信仰宣言。さらに、パトレム・オムニポテントゥム、エト・インカルナートゥス、エト・レズレクシト、エト・イン・スプリトゥム、エト・ウーナム・サンクタム、エト・ヴィダム・ヴェントーリの六曲に分かれている)、第4楽章サンクトゥス(感謝の讃歌)、第5楽章アニュス・デイ(平和の讃歌)である。

私はこの中で第1楽章キリエと第3楽章クレードが特に好きである。

キリエでは、導入部を奏でる管弦楽が天上的な美しさである。穏やかで厳かで素晴らしい。また、第3楽章クレードはソプラノやバスの独唱が素晴らしく、合唱も美しい。聴くととても穏やかな気持ちになって清々しい。モーツァルトの宗教曲はすーっと心の中に入ってきて魂を鎮めてくれる。

私の愛聴盤は、ソプラノ:エディット・マティス、アルト:ローゼマリー・ラング、テノール:ウヴェ・ヘイルマン、バス:ヤン―ヘンドリック・ローテリング、合唱:ライプツィッヒ放送合唱団、ヘルベルト・ケーゲル指揮、ライプツィッヒ放送交響楽団の録音である(CD:フィリップス、422738-2、1988年ライプツィッヒで録音、輸入盤)。管弦楽も独唱・合唱も素晴らしい名録音である。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『いつもモーツァルトがそばにいる。ある生物学者の愛聴記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。