この網膜内の情報伝達過程において、双極細胞は複数の光受容細胞から入力を受け、神経節細胞は複数の双極細胞から入力を受けることにより、一つの神経節細胞は網膜上の一点より大きい円状の部位の明暗に応答することになる。

次に神経節細胞は、大脳皮質内側にある()(しょう)内の外側(がいそく)膝状体(しつじょうたい)と呼ばれる領域に、軸索(じくさく)と呼ばれる長い神経突起を伸ばして、そこの神経細胞にシナプス結合する(投射(とうしゃ)する)(図3)。そして、視床外側膝状体の神経細胞は後部大脳皮質(後頭(こうとう)(よう))にある一次(いちじ)視覚(しかく)()に投射する。一次視覚野の神経細胞は視野内にある円状の明暗には全く応答せずに、各々が特定の視野位置の特定の傾きの線に応答する(図4)。

[図]視覚(しかく)系情報伝達経路。網膜の神経節細胞からの出力は、間脳(かんのう)()(しょう)にある外側(がいそく)膝状体(しつじょうたい)中脳(ちゅうのう)上丘(じょうきゅう)と呼ばれる領域へ送られる。そして、外側膝状体は大脳(だいのう)皮質(ひしつ)後部にある一次(いちじ)視覚(しかく)()へと情報を送る※1
[図4]図4大脳皮質視覚野の神経細胞の応答性。一次視覚野の各神経細胞は、視野の特定の位置にある特定の傾きの線に反応する。左図では、縦線に応答する神経細胞活動例を示している。一次視覚野からは、大脳皮質背側方向と腹側方向へと情報伝達が行われ、背側経路では、物の動きや立体視に関する情報処理が行われ、腹側経路では、形状に関する情報処理が行われる(右上図)。側頭(そくとう)(よう)視覚野の神経細胞は、右下に例示したような複雑な形状の図形に応答する。また、一部の神経細胞は顔に応答する※2

次に、一次視覚野の神経細胞は、多数の視覚関連大脳皮質領域(高次視覚野)に投射するが、その中で形の知覚に関与するのは側頭(そくとう)(よう)の視覚関連皮質部位であり、そこに存在する神経細胞は顔や複雑な形の図形に応答する(図4)。

なお、この応答はその図形が視野のどこにあっても同様であり、この部位の神経細胞は特定の図形の形状に応答し、場所についての情報は消失している。つまり、場所については情報が一般化されていて、この部位の神経細胞は、ある程度概念化された特定の形態についての情報を反映した活動をしていると見なせる。

※1 参考文献:何のための脳? AI時代の行動選択と神経科学、平野丈夫著、2019、京都大学学術出版会
※2 参考文献:脳と心の正体:神経生物学者の視点から、平野丈夫著、2001、東京化学同人

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『自己とは何なのか?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。