大きなマンションの一室。

知らないおばさんと知らないお兄ちゃんとお姉ちゃん。よく吠える犬が二匹。

僕と珠ちゃんは知らない家の中にいる。お父さんが僕らをここに連れてきてから三日が経っていた。

壁にかかったカレンダーはまだ十二月なのに楽しかった僕の誕生日の出来事はとても遠くに思えた。この家に来てからずっと僕と珠ちゃんの横にはお兄ちゃんかお姉ちゃんがいる。

お兄ちゃんは優しくて色んな話をしてくれた。二人とも高校生でゲームと野球が好きなこと。おばさんの子供でお父さんとは初めて会ったと言っていた。

だけどお母さんのことを話そうとすると怖い顔で怒られる。それにご飯もハンバーガーばかり。

お母さんのご飯が食べたいなぁ。お母さん、今しおちゃんのとこかな。ベランダで泣いてないかな。くみちゃんのお家のほうが楽しいな。早く帰りたいな。

そんなことばかりを考えていたけど僕は外に出ることもできずにずっと同じ部屋の中にいた。

窓の外はもう夕方。空がオレンジから真っ暗になっていく時間。隣の部屋からお父さんとおばさんの声が聞こえる。

「どうするの?」

「まぁ、なんとかするよ」

「早くしてよ。年内には片付けて」

「分かってる」

なんの話だろう。

襖に近づくとすぐにお兄ちゃんに抱っこされて部屋の真ん中に連れていかれる。珠ちゃんは隅っこで本を読んでいる。また怖くなって大声で泣いた。うまく息ができない。お兄ちゃんが頭を撫でたり抱っこしてくれたけど余計に怖くなって涙が止まらない。

襖が開きお父さんが何も言わずに僕をぶった。

「うるさい、外連れてって。泣き止んだらすぐに戻ってきて」

おばさんがお兄ちゃんに言う。僕はお兄ちゃんに抱えられたまま靴を履かしてもらって久しぶりに外に連れ出された。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『 笑生』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。