「そういえば、最近はCOP(コップ)いくつなんていうニュースもあまり聞かなくなったわね。気候変動枠組条約っていうのも忘れているわ」

「だいぶ昔の話になるが、COP3スリーが日本で開かれて、京都議定書がどうのって言っていたころは、日本も本気で温暖化に取り組む姿勢が感じられたけどね。あのころはうちの会社でも二酸化炭素をどうやって減らすかを真剣に議論していたな。日本中、どこも社を挙げて盛り上がっていたような気がする。俺も若かったな。二酸化炭素の削減目標を、社として具体的に掲げるように上司に迫ったのを覚えているよ」

「日本もそうですけど、大国が連携して責任を持たないと」

「アメリカがパリ協定から一方的に離脱したことがあったな。あれが大国の自国中心主義を加速させる転機になったかもしれない。大統領が代わってすぐに復帰したようだが、実態はあまり変わっていないような気がするよ。また後戻りするかもしれないし。われわれとしてはアメリカのリーダーシップに期待したいところだがね」

「パリ協定って、二〇五〇年までにゼロ・エミッションを達成させようとする目標ですよね」

「産業活動による二酸化炭素排出はいしゅつ量を、実質的にゼロにしようとする取り組みだ。産業革命以前の排出量に戻すんだよ」

「そんなことが実際にできるのかしら。それに、二〇五〇年といえば、まもなくじゃない。それまでに化石燃料をゼロにするわけでしょ? 間に合うのかしら」

「自動車の電動化がすべて達成されたとしても、それだけで産業革命以前に戻るとは思えないな」

「できなかったらどうなるのかしら」

「いずれ地球に人は住めなくなるのさ。大陸の砂漠化はこれからますます進む。陸地のほとんどは砂と岩だらけになるだろう。日本の自然も例外ではない。北極圏の氷河は昔に比べたらほとんどなくなっているに等しいし、南極の氷も解け出して海面上昇とか言っているが、南極に氷が残るのもこれから数十年程度のことかもしれない。そうなるともう後戻りはできないだろうな。その先は一気に気温が上昇して、しまいには海も干上がってしまうだろう。地球は砂と岩だらけの星になるんだ」

「怖いこと言わないで、あなた。今夜は眠れそうにないわ」

「ははは。怖がることはないさ。俺たちが生きている間は大丈夫だ。せいぜい、今夜のように熱帯夜が増える程度さ」

「それも無責任だわ。ねっ、覚えている? 山崎直子っていう宇宙飛行士のこと?」

「日本人で二人目の女性飛行士だったね。それが?」

「わたし、彼女の本を読んだことがあるのよ。その中に、宇宙から地球を見たときの感動をんだ歌がっていたわ。地球が瑠璃色るりいろに輝いていたんですって」

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『香倶耶という女性』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。