第3節 新たなる危機

資本主義の市場経済社会では、ギャンブル的な投機などによって<虚の富>を膨大なものにするし、<富の偏倚>も制限していない。最近は社会主義の社会も、この市場経済に近づこうとしているから、人類の前途はまことに暗いのである。

それにもかかわらず、人々の多くは現状の社会のままで良いと楽観視している。しかし、世界には「これから新たな金融恐慌が始まる」とみる者も少なくはなく、2008年の大恐慌がどん底ではないようなのである。

そして、2011年6月パリで開催された「G20」においてフランスが金融規制を訴えたけれど、資本主義各国の意見は、「どこまで投機によるものか」が明確でないとする傾向が強く見られた。また、日本では「ノックイン型投資信託」(注)の販売をめぐりトラブルが相次いでいることも報道されている。

(注)証券会社よりも安全だという印象のある銀行が「条件付き元本確保型」とか「リスク軽減型」と銘打ち販売してきた金融派生商品で、多くの購入者とくに高齢者を困窮させた。

市場経済制度の弊害は明らかであるとして、ソ連などが計画経済制度の社会で人類を幸せにしようとした。けれどもそこには友愛が欠けていたために、計画が杜撰で生産量も誇張されるなどの誘因構造のあるものとなり生産性の低い結果を出してしまった。

1991年、ソ連は崩壊してロシアに戻り、財産私有化への道を選んだので、10年くらいの間に資産を持つ少数の者と持たざる多数の人民に分かれるようになったのである。なお、ロシア(人口約1億4千万人)はGDPが1兆8577億ドルしかないのに、日本(人口約1億2千万人)は5兆8703億ドルである。

同様に、中国(人口約13億5千万人)のGDPは7兆2037億ドルでアメリカ(人口約3億8百万人)が14兆9913億ドル(注1)なので、一般に社会主義の国々におけるGDPの低調さは歴然としている。

更に、ロシアでは贅沢な生活をしている共産党上層部の汚職が酷い(注2)らしい。

そのため毎年300万人ずつ貧困者が増えているとも伝えられるが、最近は「外貨建住宅ローン」で購入させられた多くの人民たちが、2014年頃からのルーブル下落により支払不能に陥るようになっているという。それは、2017年1月にNHKBS1のドキュメント番組の「マイホームを奪わないで~モスクワ経済危機の冬~」として日本でも放映された。

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(注1)上記の数宇は世界国勢図会2011年矢野恒太記念会編集発行のものである。(注2)世界の「清潔度」ランキング調査ではドイツ・フランス・英国・アメリカ・日本等が10~20位であるがロシア・中国・北朝鮮は100位台である。

※本記事は、2022年2月刊行の書籍『世界の現状と互立主義』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。