第3話 「ひとり」

私は学校へは行っていましたが、誰とも関わらず、いつもひとりでした。何も頭に入らず授業は右から左へ抜けて行きました。

その変わりに私が毎日考えていた事があります。どうやって死ぬかです。まだ小学校を卒業して数か月の私には、あまりにもつらすぎる経験でした。

あの男はどうして私の家に来たのか。そうです。母が連れて来たんです。母はこうなる事を知っていて、わざと男を連れてきて私と2人にしたのでしょうか。私には心当たりがありました。

母は父と別れてから家の事を全くしなくなり、私が掃除や洗濯をしました。いつも母は男と遊びに行く事ばかり考えていたので、そんな母が大嫌いになっていました。母のする事なす事が全部嫌でいつも母と私はけんかしていました。

私は思ったのです。母は私の事が口うるさい嫌な子供であり、男に差し出しておけば自分は遊びに連れて行ってもらえると思ったのではないだろうか。わざと私を男と2人にしたんだろうと。

そう思うともう何もかもどうでも良くなって、どうしたら死ねるんだろうかとよく考えました。よくテレビでやっている学校の屋上に靴をそろえて飛び下りることなどできるだろうか。

しょうゆを一気に飲み干せば死ねるらしい、バファリンを一箱全部飲んで寝たら死ねるとか、念には念をで2箱飲むか、とか、色々考えたけど、決行はできませんでした。

ただ、一人で死ぬのもくやしい、あの男にも何かしてやらないと気が済まない。どうしてやろう、住所をつき止めて手紙を出すか、この男は子供を強姦しましたって。それよりもいっそ殺してしまおうかその後で、遺書でも書いて死にましょうか。

母はだいちを連れて男と出掛けて行きます。私はあれ以来男の事をくずと呼んで一緒には行きませんでした。ついて行かない事はできるけど連れて来るのは止めてもムダでした。

母はまたしても男を残して先に仕事に行くと言って出て行きました。この時はだいちもいたので男も帰るだろうと思っていたら、少し酔っている様子で何度も私の体を触ってきます。

私はだいちをおばあちゃんの所へ行かせました。このままではだいちがいてもおそってくるかもと思ったからです。そして、男を殺す事を考えていました。今度襲ってきたら、どうにかにて男を殺してやろうと考えていたのです。

でも結局、殺すどころかまたしても男に強姦されてしまいました。あろう事か男は満足したかのようにおこづかいをあげると二、三千円を私に渡したのです。

男が帰ると怒りがこみ上げてきました。私を何だと思っているんだと。

前にも増して死ぬ事と殺してやりたい気持ちが大きくなり、起きている間、ずっとそんな事ばかり考えいました。もし妊娠していたらどうしようなどとそんな事まで考えました

男の殺し方まで色々考えました。

父に頼めば殺してくれるだろうかとか、酒に毒を入れようか、男の会社に慰謝料を請求してやろうかなどと、もう中学一年生の考えるべき事ではない様な事を毎日毎日朝から寝るまでずっと考えていると私の性格もおかしくなっていきました。

学校でも、つばきちゃんが他の友達と仲良くしているのを見て泣き出していたりしました。

母は相変わらず自分が楽しければ良かった。

母は私とだいちに祭りに行くよと言いました。

私は行きたくなかったけど、まだ小さいだいちがかわいかったので、だいちは行きたいんだなと一緒に行く事にしました。

ご飯を食べるからお店に行くとあの男も来ました。

まあ今日は母も一緒だし、今度は帰ったらすぐにおばあちゃんの所へ行けばいいと考えていたので少し油断していたのですが、母は「仕事に行くから帰りは送ってもらいなさい。」と言って行ってしまいました。

母がいなくなると男はだいちの手をおもいきり引っぱりました。

だいちが痛がるので私は「やめて。」と言うと、男はとても不機嫌そうでしたが携帯電話もない時だったので男に送ってもらわないと家に帰れないから仕方なく後をついて歩きました。

男は車に乗ると酔っているせいかごきげんでした。

あるアーティストの曲を大音量でかけてオメオメコと呼んで歌っているのです。

何度も何度もくり返し大声で呼ぶのでだいちも怖がっていましたが怒らせてはいけないと私はだいちを抱きしめて怖いのをこらえておとなしくしていました。家に着くと車から飛び降り母屋に飛び込んだ。

素早くかぎを閉め決して出ていかなかった。

おばあちゃんに男が酔っぱらっているからと言って、だいちを寝かせてもらった。

だいちが怖がっていたのでおばあちゃんも大変だと思った様子で、男が戸をドンドンたたいて私に出て来いと呼んでいたが取りつがなかった。

しばらくして男は帰ったが、とっても恐ろしく長い恐怖の夜だった。

あまりの恐怖体験だったので、それ以来母に言われても色々と言いわけを考えて男が一緒の時には絶対に付いて行かなかった。

普通の親なら酔っぱらった男の車で大事な子供達を家まで送らせたりはしないはずです。

しばらくするとあの男は家に来なくなったのだが庭に干してあるパンツの一部が切り取られるという事が何度かあった。

私はあの男の仕業ではないかと疑ったが結局の所は分からずじまいだった。

あの男も来なくなり、私は安心できるようになったが、やはり男を許せない、殺してやりたい、死んでしまいたいという思いは頭の中から消えなかった。

勉強を全くしていなかったせいもあり成績は最悪の状態だったので、前向きになる気力も出てこなかったのです。

少しでも一人になってぼんやりする時間があると、私はあの日男に襲われた事を思い出してしまいます。忘れようとしても決して忘れる事などできないのです。