このような不適切と思われる講師については、国田は担当講義終了後に久船副学校長に講師の更迭を願い出た。

「久船先生、講義内容について偏りのある講師のB先生や休講の多い講師のC先生を他の先生に変更してもらえませんか? また、D先生には大きな声で講義をするか、マイクを使用するかをお願いして下さい」

国田は心の中の怒りを表面に出さずに淡々として話した。B先生、C先生も開業医であり、木曜日の午後を休診としているので、木曜日に講義をしているのであった。D先生は女性の勤務医である。久船は困惑し、すぐに言葉は出なかった。

「B先生もC先生も開業医で、どちらの先生も病院でなく診療所ですね……。さぁ、どう言ってお断りしましょうかねぇ」

久船が眉間に縦皺を寄せて言った。

「それは久船先生がうまく言って下さい」

久船は一般の開業医は木曜日と土曜日を除いて午後も必ず診察をしているため、木・土以外の午後の講義は不可能であることから、来年はカリキュラムが変更になるので木曜日、土曜日以外の曜日の講義は無理でしょうねと話を進めて辞退させることを考えた。

しかし、そうするためには後釜の先生を木曜日、土曜日以外にお願いできるかどうか確認しておかねばならない。または、来年からは問題のある先生には講師の依頼をせずに放置するという考えが脳裏に浮かび、国田にどちらが良いか相談した。

「それは困ります。キチンと理由を言って断って下さい。もし、来年も講義をする気でいる先生だったら、依頼せずに放置していて問い合せがきたらどうされますか」

「B先生、C先生にズバリと理由を言ってお断りしますと言って良いのですか」

「先生にお任せします」

「後釜の先生は誰が決めるのですか」

「それは副学校長である先生が、お決めになることです」

久船は再び眉間に皺を寄せた。国田は久船を上手に裏で操って無理難題を簡単に押し付けて、自分の思う存分な学校にしようと考えていた。看護専門学校の夏期休暇は大学・短期大学に比較して短縮されており、七月二十七日〜八月十九日までの約三週間である。この期間には一つの大きな仕事がある。それは来年度の入試問題の作成である。

市内のある大学の先生に国語(現代文)、数学、英語、理科(生物学)の四教科の問題作成を約二カ月前から依頼しており、七月中旬にこの入試問題の原稿を尾因刑務所の印刷作業課に届けて約三週間後にゲラ刷を受け取り、夏季休暇中に二回の校正を問題作成者に実施してもらって本印刷となる。夏季休暇中にこれらの作業をするのは、試験問題が漏洩するのを防ぐためでもあった。

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『【文庫改訂版】女帝看護教員』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。